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お久し振りね side:右京⑥
今ここで拒絶してこのチャンスを逃したら、俺達はこの先ずっと愛し合えない気がする。
変な予感が頭をよぎった。
せっかく時間を作ってくれたお義母さんと、この後に続く詩音君の顔が浮かんだ。
そして…優…
パパとママは仲良しがいいよね…
俺だって…俺だって潤だけを…
「…右京…」
散々弁解して、最後に切ない声が俺の名を呼ぶ。
俺はじっと潤を見つめていた。
絡み付く視線も、身体から放たれるフェロモンもカラーも、嘘をついてはいない。
ひたすらに…俺だけを求めていた。
「じゃあ…それ、証明してよ。」
「え?」
「『俺だけ』って言うなら…証拠見せてよ。」
言いながら頬が火照るのが分かった。
それからの潤の行動は素早かった。
俺の手を掴み指を絡め席を立つ。
途中、さっきのマエダヒカルの席を脇目も振らずにすり抜けた。
未練がましい彼の色と視線は潤を追っていたが…すぐに消えた。
タクシーに押し込まれ、無言の俺達は指を絡めたまま、立ち昇るお互いの匂いに酔いしれていた。
俺は肩を抱き寄せられ、それに抗うことなく頭を潤の肩に乗せ、時折降ってくるキスに応えていた。
軽く啄ばむようなキスは、やがて舌先を捻じ込まれ、ちゅくちゅくとイヤラシイ音を立て始めている。
溢れ出る唾液を啜られ、口内を蹂躙された。
久し振りの熱烈な求められ方に、頭がぼんやりしてきて思考回路は焼き切れそうになっている。
ココジャイヤ
ヤメナイデ モット モット ホシイ
相反する思いに胸の鼓動は跳ね上がり、繋がれたままの反対の手で、潤のスーツの胸元を握り締めていた。
焦ったような運転手の咳払いが聞こえるが、今の俺達には他人のことを考える余裕なんてなかったんだ。
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