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羨望 side:詩音②
「あっ、継。着替えここに置きましたよ。
スーツ皺になっちゃうから、先に持っていきますね。」
「あぁ、ありがとう。」
継の逞しい身体を目の端に見遣って、そそくさと部屋に戻った。
さっき見た継の裸がチラついてドキドキしながら、ブラシをかけてハンガーに掛けて…とやっているうちに継が部屋にやって来た。
「ねぇ、兄貴達デートってどういうこと?」
きたっ!どストレートな質問!
「あのね、昼間三人でいろいろ話してて…お義母さんがね、気を利かせてくれて…」
「そうなんだ…」
それっきり継は黙ってしまった。
分かってる、分かってるよ、継。
あなたが何を考えて、何を言いたいのか。
俺はちゃんと分かってるんだ!
言わなきゃ、ちゃんと言って、継を安心させてあげなきゃ!
「あのね、あのね。」
「どうした?詩音。」
継は、俺をそっと引き寄せて抱きしめた。
その温もりに勇気百倍になった俺は思い切って話しだした。
「あのね、俺達も…俺の身体がもう少し回復して落ち着いたら…お義母さんが仁を預かってくれるって。
だから、その時にはお義兄さん達みたいにデート」
話の途中で唇を塞がれた。
息ができなくて苦しくなって、継の胸をどんどんと叩くと、やっと唇から離れてくれた。
「…詩音は…それを受け入れてくれるの?」
「…そんな…そんなこと聞かなくても…」
「…そうか…俺のこと、嫌いになったんじゃないんだな…良かった…」
嫌?何で?
何処からそんな考えになるの?
「…継…俺がいつ『嫌い』なんて言いましたか?」
言いながら、何だか悲しくなってきて、涙が滲んでくるのが分かった。
ぎゅうっ
抱きしめられて、また息が止まりそうになった。
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