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羨望 side:詩音⑥

「あー…行っちまった… …あれ?仁…優君が寝たらお前もか? 何だよ…最初からちゃんといい子で寝ろよ。」 見ると、仁は先程までの大暴れは何処へやら、俺に抱っこされたまま、小さな寝息を立てて眠っていた。 俺は仁を蔑ろにしている(ような)態度を取る継に腹が立っていた。 継を置いて、黙って寝室へと足を向けた。 「詩音?」 慌てて追いかけてくる継を無視して口をきかない。 仁をそっとベビーベッドに寝かせ、戸惑いの匂いを出している継に 「お休みなさい。」 と、たったひと言告げて布団に潜った。 「…詩音…」 背中を向ける俺の肩をそっと抱いてくる継。 その手をやんわりと跳ね除けて 「お休みなさい。」 と冷たく言い放った。 継は、何故俺がそんな態度を取るのか、全く分かっておらず、『どうして?』『何で?』と無言の問い掛けが絶え間なく流れてくる。 「詩音、何でそっち向くの? 『俺、今夜は抱きしめて眠りたい』って言ったよね?」 それでも俺は黙っていた。 「詩音。俺はこんなの嫌だよ。 思ってることがあるんなら、ちゃんと話し合おうよ。 言葉にしないと分かんないじゃないか。」 俺はため息をついて、くるんと継の方に向き直った。 「だって、継は自分のやりたいって思いばかりで、仁のことを邪魔者扱いしてるじゃないですか。 仁が中々寝付かないことに苛立ったりして。 俺達の大切な家族なんですよ!? どうしてそんな邪険にするの!? 継にとって、仁は邪魔なんですか!?」 「え?」 継はポカンと『何言ってんの?』って顔をしていた。 「…俺、そんなつもりはないんだけど… …何か、しでかしてた?」 「だって…仁が寝付かないからイライラして…早く寝かそうって焦ってるみたいで…」

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