629 / 829
羨望 side:詩音⑨
かちゃ
継が足音を忍ばせて戻ってきた。
仁の側にいる俺を見ると、ヒソヒソ声で
「仁の泣き声が聞こえたんだが…おっぱいタイムだったのか?」
こくりと頷くと
「夜中もこれだ。寝不足にもなるよな。
さ、詩音、眠れる時にゆっくり眠ろう。」
肩を抱かれ優しくされて、また涙が出てきた。
継は何も聞かず俺の涙をそっと指で拭き取ると、お休み、と頬にキスをして、さっきよりも少し離れて横になった。
…継から寂しそうな匂いがしてくる。
堪らない気分になって、もぞもぞと後に続いて布団に潜り込むと、継に抱きついた。
「しっ、詩音!?」
何も言わずにただ、ぎゅっ と抱きつく。
涙が止まらない。
えぐえぐと声を堪えて泣く俺の背中を継はそっと撫でてくれる。
俺は…泣きながら、震える指で継のパジャマのボタンを外し始めた。
「うおっ!?詩音っ!?」
驚く声と、継の戸惑いと期待に満ちた匂いがする。
俺のやることを止めもせず、なすがままになっていた。
継の前をはだけて、素肌にそっと頬を寄せた。
そして、俺もそっと胸を開いて、片方ずつ袖を抜いて上半身裸になると、肌を密着させた。
全速力ダッシュの後のような鼓動は、どちらのものかは分からない。
そうしているうちにいつの間にか、ズボンも下着も継に脱がされて、一糸纏わぬ姿の俺達は、ぴったりと抱き合っていた。
脈打つ剛直から欲望の匂いが脳を刺激してくる。
でも…でも、継に我慢を強いているのは十分過ぎるほど分かっているけれど。
「…お願い、このままで…」
「…分かった…ありがとう、詩音。」
顔中に、優しいキスが降ってくる。
それら全てを受け止めて、また一粒溢れた涙を吸い取られ、心地良い温もりに包まれたまま、俺はゆっくりと意識を手放していった。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!