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羨望 side:詩音⑨

かちゃ 継が足音を忍ばせて戻ってきた。 仁の側にいる俺を見ると、ヒソヒソ声で 「仁の泣き声が聞こえたんだが…おっぱいタイムだったのか?」 こくりと頷くと 「夜中もこれだ。寝不足にもなるよな。 さ、詩音、眠れる時にゆっくり眠ろう。」 肩を抱かれ優しくされて、また涙が出てきた。 継は何も聞かず俺の涙をそっと指で拭き取ると、お休み、と頬にキスをして、さっきよりも少し離れて横になった。 …継から寂しそうな匂いがしてくる。 堪らない気分になって、もぞもぞと後に続いて布団に潜り込むと、継に抱きついた。 「しっ、詩音!?」 何も言わずにただ、ぎゅっ と抱きつく。 涙が止まらない。 えぐえぐと声を堪えて泣く俺の背中を継はそっと撫でてくれる。 俺は…泣きながら、震える指で継のパジャマのボタンを外し始めた。 「うおっ!?詩音っ!?」 驚く声と、継の戸惑いと期待に満ちた匂いがする。 俺のやることを止めもせず、なすがままになっていた。 継の前をはだけて、素肌にそっと頬を寄せた。 そして、俺もそっと胸を開いて、片方ずつ袖を抜いて上半身裸になると、肌を密着させた。 全速力ダッシュの後のような鼓動は、どちらのものかは分からない。 そうしているうちにいつの間にか、ズボンも下着も継に脱がされて、一糸纏わぬ姿の俺達は、ぴったりと抱き合っていた。 脈打つ剛直から欲望の匂いが脳を刺激してくる。 でも…でも、継に我慢を強いているのは十分過ぎるほど分かっているけれど。 「…お願い、このままで…」 「…分かった…ありがとう、詩音。」 顔中に、優しいキスが降ってくる。 それら全てを受け止めて、また一粒溢れた涙を吸い取られ、心地良い温もりに包まれたまま、俺はゆっくりと意識を手放していった。

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