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疑念①
ハイハイを覚えた仁は、目を離すとすぐにあらぬ所へ入り込み、ドヤ顔で歩き回る優君と一緒に、家の中で行方不明になっては、家族中が大騒ぎをしている。
何かやらかしても『にぱぁ』と満面の笑顔を繰り出す彼らに、流石のお義母さん達も叱れなくなっている。
俺と右京さんだけは当然のように きっちり叱るので、最近ではお義母さんの所へ逃げ込んでいく。
そういう知恵は回るのか…
「潤も継も大概だったけど…この子達はそれ以上かも。
右京君、詩音君、しっかりね!」
お義母さんに揶揄いと激励を受ける始末。
大変なこともあり過ぎるけれど、それ以上に楽しいことやうれしいことが満載の毎日で、こうして仁もすくすくと大きくなり、俺も少しずつ子供のいる生活のリズムに慣れてきた。
勿論、お義母さんや右京さんの助けがあるからこそなんだけど…このまま継の実家でお世話になっててもいいのかな…
もう半年以上も経ってるのに、甘え過ぎなんじゃないか、そろそろマンションに戻らなくっちゃ…
なんて考えていたある日のこと。
「ただいまー!」
「お帰りなさい。お疲れ様でした。」
いつものように、継の背広を受け取った時、ふわっと今まで嗅いだことのない匂いがした。
それは、甘くて官能的な…
何故か胸がぎゅっと痛んだ。
仕事?接待?
ちら…と継を見るけれど、いつもと変わった様子はない。
この匂い…何?“誰の”匂い?
ざわつく胸を落ち着かせ、継を見つめる。
「ん、どうした、詩音。」
「いっ、いいえ。何でもありません。
お風呂とご飯、どちらにしますか?」
「みんな揃ってるんだろ?先に食べるよ。」
…何も変わったところは…ない。
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