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疑念③

右京さんが流しにやって来た。 「あれ?詩音君、ご飯食べたの? ほとんど食べてないんじゃないの?」 「あ…食欲なくって…風邪でも引いたのかな…でも、大丈夫です!」 「…何かあった?」 「ううん、何にも。あ、俺洗いますから、右京さん優君見ててあげて下さい。」 「…そう?大丈夫?…じゃあ、今日は甘えてお願いするね。辛かったら言ってね。」 「はい、ありがとうございます。」 仁と優君のはしゃぐ声が聞こえてくる。 継達の笑い声も。 今は、あの輪の中にいたくない。 俺は流しに積まれた食器をゆっくりと洗い始めた。 「詩音君、しんどいんじゃないの?」 お義母さん… 「いいえ!大丈夫です! 何だか風邪の引き始めかも…みんなに移さないようにマスクしますね。」 「そう?大事にしてね。辛かったら代わるから。」 「そんな…大丈夫です!」 お義母さんは何か言い掛けたが、みんなの所へ戻って行った。 右京さんもお義母さんも鋭い。 余計な心配掛けないようにしなきゃ。 急いで片付けると、仁のお相手をしに戻った。 「ほーら、ママ来たぞー!」 継が仁を連れて、笑いながら近付いてきた。 ふわっ さっきの匂いが纏わり付いてくる。 すっと血の気が引いて、継を見ずに仁を受け取った。 継との距離が近付けば近付く程、濃くなる。 嫌だっ! 「…俺、今日は先に休ませてもらいますね。 お休みなさい。」 「詩音君、無理しちゃダメだよ!」 「仁君は俺とパパで見とくから、ゆっくり休みなさい。ね?」 お義母さんが、俺から仁をそっと引き離した。 「あ…でも…」 「いいから!」 有無を言わさず仁を抱っこしたお義母さんは、仁の手を振って「ママ、おやちゅみ」と腹話術で挨拶した。 「…ごめんなさい、お休みなさい…」

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