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疑念⑥
「…そうだったんだ…何か身体が怠いって思ってて…」
辛くて継の顔を見ることができなくて、視線を晒せて返事をした。
前髪をそっと掻き上げられ、おでこに手を当てられた。
大きくてあったかい…気持ちいい…
「…うん、熱も大分下がったみたいだな、良かった。
家に帰ると、きっと仁や家事のことが気になって動き回るだろうから、回復するまでここにいろ。
お袋も右京さんも、ぜひそうしなさいって言ってる。
…なぁ、詩音。
お前、何か気になることでもあるのか?」
びく と身体が跳ねた。
それでも何もない風を装い
「…いいえ、別に。
身体が元に戻ってきてるから、張り切り過ぎちゃったみたいです。
香川先生もそう仰ってるんでしょう?
熱が下がれば大丈夫です。ご心配かけてすみませんでした。
お義母さん達にも心配かけちゃった…謝らなくっちゃ。
俺、もう一人で大丈夫ですから、継もお家に帰ってゆっくりして下さい。
…少し休んでもいいですか?」
何か言いた気な継の言葉を無理矢理遮るように、目を瞑った。
「お前が眠るまでここにいるよ。」
“眠るまで”は、いてくれるんだ。
その後は?
どこに行くの?
その…香水の人の所?
嫌、行かないで!行ったらダメっ!
「詩音?どこか痛むのか?香川先生呼んでくるから待ってて!」
焦ったような継の声に目を開けると、心配そうに覗き込む瞳と打つかった。
「…あ…違う、大丈夫…違う…」
やっとそれだけ言うと、もう言葉にはならず、頭から布団を被って泣いた。
もう、ダメ。
止まらない。
込み上げる真っ黒い感情がドロドロと出てきて止まらない。
嫌だ、嫌なんだ。
だって、俺の、俺だけの継なんだよ!?
何で、何で他の人の匂いを付けて帰ってくるの?
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
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