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疑念⑧
試作品…調香師…俺のイメージの匂い…お義兄さんと右京さん…
誤解?あの匂いは…俺?
瞬きを繰り返し、継をじっと見つめる。
優しい鳶色の瞳が真摯に俺を見つめている。
いつもの継の匂いに包まれ…ぽろりとまた涙が落ちた。
「詩音…お前、自分で自分に嫉妬してたんだよ。
…ちょっとイマイチイメージが違うけどな。」
ふわりと抱きしめられ、胸がぎゅっと締め付けられる。
浮気じゃ…なかった…
俺の…俺だけの継だった…
勘違い?思い込み?
そう思ったらホッとしたのと恥ずかしいのとで、継の胸に顔を埋めて泣いてしまった。
そんな俺を継は優しく抱きしめ、背中を摩ってくれていた。
「ごめんな…俺がちゃんと伝えておけば、こんな辛い目に遭わさなくて済んだのに…
余計な心配させてしまった…ごめん。
でもさぁ、詩音…
俺にはお前だけなんだって、何度伝えれば信じてもらえるのかな?」
最後は揶揄いがちに笑いを含みながら言った継は
「…お前を知った今は、浮気なんて…考えられない…」
と呟いた。
「…ゴメンナサイ…」
やっとのことで伝えた言葉に、継は微笑んで頷くと
「しっかりご飯を食べて、体調を戻してから家に帰るぞ。
仁はお袋が見てるから心配するな。
俺が付いてるから、ゆっくり休んで…」
「え…側にいてくれるんですか?」
「当たり前じゃないか!
明日から休みだし、香川先生に頼んであるから。
さ、少し休むといい。
俺は、ここにいるから。」
継はそう言って、俺を横たえ、また右手をそっと包み込むとキスしてくれた。
何だか自分がバカみたいで、呆れちゃって、恥ずかしくて。
継にあんな態度を取ったことも申し訳なくて。
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