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疑念⑨

「詩音、そんなに気にするな。 俺はうれしいぞ。詩音がそんな悋気を起こす程に、俺のことを思ってくれてるなんて分かったから。 どんな詩音も愛してる、って言っただろ? さぁ、目を閉じて。 …眠るまでキスしようか?」 俺はふるふると首を振ると、そっと目を閉じた。 視覚が遮断されると、余計に嗅覚が働く。 甘くて切なくて、愛おしくて堪らない匂い。 身体も心も震える。 顔中に触れる柔らかな感触…ホントにキス、されてる… それを心地良く感じながら、今までの不快感は何処かへ行ってしまい、安堵してゆっくりと夢の中へ吸い込まれていった。 ゆっくりと意識が浮上する。 いつの間にか点滴の管も外れ、右手にあるはずの温もりがなくなっていた。 数度瞬きをして、継を探す。 「継?」 あれは夢だったのかな… 悲しくて泣きそうになったその時、継が両手に朝ご飯の乗ったトレイを持って戻ってきた。 「詩音、おはよう!気分はどう? 俺の分もゲットしてきたぞ!」 顔を見た途端、涙腺が緩んだ。 「しっ、詩音!?まだどこか痛いのか?」 オロオロする継に、首を横に振り、ぎゅっと抱きついた。 継はトレイを台の上に置くと、自由になった両手で俺を抱きしめてくれた。 「おはよう、奥さん。一人にしてごめんな。 ほら、昨夜も食べてないからお腹空いただろ? 一緒に食べよう。」 抱きついたまま こくこくと頷く。 頭を撫でられ、そっと引き剥がされた。 縋るように継の服の裾を掴み見上げると 「大丈夫。何処にも行かないから。 ほら、口開けて。あーん。」 いつもの餌付けが始まった。

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