639 / 829
疑念⑨
「詩音、そんなに気にするな。
俺はうれしいぞ。詩音がそんな悋気を起こす程に、俺のことを思ってくれてるなんて分かったから。
どんな詩音も愛してる、って言っただろ?
さぁ、目を閉じて。
…眠るまでキスしようか?」
俺はふるふると首を振ると、そっと目を閉じた。
視覚が遮断されると、余計に嗅覚が働く。
甘くて切なくて、愛おしくて堪らない匂い。
身体も心も震える。
顔中に触れる柔らかな感触…ホントにキス、されてる…
それを心地良く感じながら、今までの不快感は何処かへ行ってしまい、安堵してゆっくりと夢の中へ吸い込まれていった。
ゆっくりと意識が浮上する。
いつの間にか点滴の管も外れ、右手にあるはずの温もりがなくなっていた。
数度瞬きをして、継を探す。
「継?」
あれは夢だったのかな…
悲しくて泣きそうになったその時、継が両手に朝ご飯の乗ったトレイを持って戻ってきた。
「詩音、おはよう!気分はどう?
俺の分もゲットしてきたぞ!」
顔を見た途端、涙腺が緩んだ。
「しっ、詩音!?まだどこか痛いのか?」
オロオロする継に、首を横に振り、ぎゅっと抱きついた。
継はトレイを台の上に置くと、自由になった両手で俺を抱きしめてくれた。
「おはよう、奥さん。一人にしてごめんな。
ほら、昨夜も食べてないからお腹空いただろ?
一緒に食べよう。」
抱きついたまま こくこくと頷く。
頭を撫でられ、そっと引き剥がされた。
縋るように継の服の裾を掴み見上げると
「大丈夫。何処にも行かないから。
ほら、口開けて。あーん。」
いつもの餌付けが始まった。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!