670 / 829
熟年デート③
「ゆっくり…そう、大きく息を吐いて…吸って…うん、上手だよ…吸って…吐いて…」
パパの言う通りに深呼吸するうちに、落ち着いてきた。
「…もう、大丈夫。驚かせてごめんなさい…」
「…真澄、ごめん。病院行こう。
今日は…香川先生がいる日だから、念のために診てもらおう。」
「ううん。大丈夫。
…ちょっと思い出しちゃっただけだから…
俺の中でもう解決してることだと思ってたのに…」
パパは、無言で俺をぎゅうっと抱きしめた。
後悔と謝罪の色が雪崩れ込んでくる…
パパ…そんなに自分を責めないで…
ちゃんと俺を守って助けてくれたじゃないか。
それに、真理子さんとは最後ちゃんと分かり合えたから。
俺は、そう心の中でパパに話し掛けながら、その温かな大きな身体に包まれ、安心してうっとりと身を委ねていた。
???
どうしたんだろう、パパの身体が震えている。
「パパ?」
心配になってそっと声を掛けた。
「…ます…み…くっ…ごめん…ごめんな…」
嗚咽を伴う掠れた声が聞こえてきた。
パパ!?
まさか…泣いてる!?
声を掛けるのも躊躇われ、俺はその震える身体を抱き返す腕に力を込めた。
謝らないで。
泣かないで。
俺は、俺は大丈夫だから。
パパがずっと守って愛してくれたお陰で、こうやってちゃんとここにいるから。
「…ちょっと思い出しただけで、過呼吸になる程…心に傷を負わせてしまって…
あれから…何年経っても消えない傷を…
俺なんかと番になったばっかりに、辛い思いをさせてしまった…
真澄、すまない…」
俺は、パパの両頬に手を添え、指先でそっと流れ落ちる涙を拭った。
そして、唇に触れるだけのキスをすると、にっこりと微笑んだ。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!