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熟年デート④
パパは潤んだ目で俺を見つめていた。
「ねぇ、パパ。
…確かに辛かったけど、そのお陰で学んだことも沢山あるんだ。
それがなければ、今の俺は、何もできない役立たずの嫁で終わっていたと思う。
今、息子達にかわいいお嫁ちゃんとチビ助達がいてくれるのも、頑張ったご褒美だと思ってるんだ。
それに…パパはずっと俺を愛して守って助けてくれたでしょ?
だから…大丈夫なんだよ!」
「真澄…」
「だから、謝るのも悲しい顔するのも止めて。
俺は、俺はパパの番になって、幸せなんだ。」
「真澄っ!!!」
パパが骨も折れんばかりに力を込めて抱きしめてきた。
パパの温もりと匂いとピンクの鎖に巻かれて、ちょっぴり苦しかったけれど、例えようのないくらいにうれしくて愛おしくて切なくて、俺はうっとりとパパに身体を預け、目を閉じていた。
「…真澄…心配だから、病院に行こう。」
俺は慌ててパパの顔を見ると
「大丈夫!もう、平気だから。
パパにこうやって抱きしめてもらってたら、落ち着いたから…
ねぇ、あと少しだけ、こうしてて…」
「本当に大丈夫なのか?
何かあってからでは遅いんだぞ?」
「ちゃんと健康診断も受けてるから心配ないって!
今、パパをチャージしてるんだから、邪魔しないでっ!」
きゅっ とまた抱きつくと、やれやれといった風に優しく抱きしめてくれた。
掛け替えのない大好きなひと。
大きな手の平が、労わるように俺の背中を撫でる。
「パパ…大好き…」
小さな声でそっと呟いた。
聞こえるか聞こえないかのささやくような声だったのに、パパに聞こえたのだろう、耳元で愛の言葉が甘く響いた。
「真澄、俺の方が愛してるよ。」
くいっと顎を上向きにされて、優しいキスが落ちてきた。
少し唇を開き甘ったるい舌先を受け止めながら、来週のデートに思いを馳せていた。
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