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熟年デート⑦

いらっしゃいませ! きちっと綺麗なお辞儀をする店員達に迎え入れられた。 笑顔もいい。 きっと、社員教育が行き届いているんだろう。 店内のお客様もみんな笑顔だ。 うん、いいお店! 案内されたのは奥の個室。 パパ…一体何を買うつもり?ここは超有名なブランドの高級店だよ? 俺はもう今までにも十分買ってもらってるよ? “何も欲しいものはない”って言ったよね? すぐに正樹君がトレイに何かを乗せてパパの側に跪いた。 タイピンと…ピアス? これは…ダイヤ! タイピンの大粒は…どう見ても1ct(カラット)は あるんじゃないか!? ピアスも小ぶりながらカットも物凄く繊細で、無色に近い… 一体いくらするの!? 不安気な俺の視線を笑顔で制したパパは 「真澄、我が家を切り盛りしてくれてるご褒美だ。 受け取ってくれ。」 そう言って、ビロードのトレイに置かれたダイヤのタイピンを受け取ると、俺が断る間も無くネクタイに着けた。 そして、手際良く さっと消毒された、同じくダイヤのピアスも。 キラキラと美しい輝きを放つそれらを鏡越しに見せられた俺は、“どうしよう、こんな高価な物を”と戸惑いながら、ただその煌めきを見つめていた。 「うん、似合う!思った通りだ。 真澄、素敵だよ。」 「パパ…こんな高い物、俺…」 パパは言い淀む俺の頭を撫でて 「俺が贈りたいんだから受け取ってくれないか? ご褒美だと言っただろ?」 「でも…」 そんな俺たちの様子を見ていた正樹君は、遠慮がちに話し掛けてきた。 「先日、お義父様が一人でお見えになって、 『真澄に似合うのはどれだろう、どれを贈れば喜ぶだろう』 って、それはそれはうれしそうに時間を掛けて丁寧に選ばれた物なんですよ。 私はそのお姿を見て、羨ましくもあり、(つま)を大切にしなくちゃって、改めて思いました。 そのお気持ち、受け取っていただければ、私も同じ夫の立場からすると、とてもうれしいです。」

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