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熟年デート⑧

「そうだったんだ…パパ、ありがとう… 本当に、いいの?」 「当たり前じゃないか!これはお前の物だよ。 それにな…何十年かして俺達がこの世を去る時に、あの世にモノは持って行けないないだろ? 形見分けというか、孫子の代に伝えて使ってほしい…そして心から愛し合ってた番の証だと、時々俺達のことを思い出してくれたらいいな、って。」 「パパ…そんなことまで…」 鏡に映る煌めきが、涙でボヤけて見えた。 俺のためだけでない、次の世代へ繋ぐ愛の証… 「…パパ、ありがとう。 俺がこの世にいる間は、しっかりと使わせてもらうね。 そして…右京君と詩音君へと繋いでいくよ。 正樹君もありがとう…」 「いいえ。 身に付けてくだされば、その子達も喜びます。 宝石も、持ち主の愛情で輝きを増すんですよ。 お二人の愛情で持っている以上の美しさになるはずです。」 そっと、左右のピアスに、そしてネクタイピンに触れる。 “俺の所に来てくれてありがとう。 これからよろしくね。”と小さく呟いて挨拶した。 それが耳に入ったのか、側についていた店員さん(ネームプレートに『副支店長 深山(みやま) 由紀と書いてあった)が 「…こんな素敵なご夫夫の元に行けて、この子達は幸せ…」 と、正樹君にささやいていたのが聞こえた。 思いがけないプレゼントに夢見心地のまま、正樹君達にお礼を言って店を後にした。 ピアスやタイピンを触りながら感謝の言葉を口にした。 「パパ、本当にありがとう。」 「これじゃ足りないんだけどな。」 「そんな…俺には分不相応だよ…」 「そんなこと言わない! さ、食事に行くよ!お腹空いただろ? 楽しみにしてて!」 途端に、二人のお腹が ぐうっ と鳴り、顔を見合わせて大笑いしたのだった。

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