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熟年デート11

大爆笑の後、存分にお礼を言って店を出た。 「とっても美味しかった! パパ、ありがとうございました。 でも…無茶言って予約したのでは?」 「ははっ…いやぁ…ま、その分ちゃんとお礼はしたからな。気にするな。」 「もう…他人様(ひとさま)に迷惑を掛けてはいけないと、あれほど」 「ストップ! 分かってるよ。でも、どうしても真澄に美味しいものを食べさせたかったから…」 そう言って絡まる指先は熱を帯びている。 それ以上叱れなくて、指を繋ぎとめた。 しばらくして、車はホテルに横付けされた。 「パパ、ここ…」 「うん。俺達の新婚一日目に泊まった所。 翌日飛行機の時間があったから、結婚式終えてすぐここに泊まったんだよな。」 「麻生田様!ようこそ!さ、こちらへどうぞ。」 「いや、こっちでいいよ。」 「そう仰らず!」 待ち構えていた支配人に別カウンターに連れて行かれて、もてなしを受け、それでもさっさとチェックインを済ませたパパは、部屋への案内を断り俺をエスコートしてエレベーターに乗り込んだ。 「…大袈裟な…俺は早く真澄と二人っきりになりたいのに…」 「パパ…」 俺の腰を抱き寄せるパパからは、俺だけに分かる甘い匂いと、ピンクのハートが放たれている。 あ…この部屋…あの時と同じ… 「パパ、この部屋…」 「そうだよ…思い出した? 真澄、そろそろパパは置いといて、名前で呼んでくれよ。」 「…慎也さん…」 「よくできました。」 優しく抱きしめられて…キス。 「まだまだ俺だってだからな… 真澄、今夜は俺に付き合ってもらうよ。」 くすくすっ (望むところだよ、慎也さん…) 心の中の悪態が聞こえたのか、にやりと笑った慎也さんは、俺の上着のボタンを見せつけるようにゆっくりと外し始めた………

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