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青天の霹靂③

継の子供? 井上…友梨奈?それ、誰? 驚き過ぎて声も涙も出ず、リアクションも取れない俺に気付いた継が叫んだ。 「詩音!違う! そんな名前の奴なんて知らない! 俺、浮気なんて絶対にしてない! ましてや、子供なんて出来るわけがないっ! 詩音、俺を信じてっ!」 必死に訴えてくる継からは、困惑と戸惑いの匂いがしてくる。 それは、混じり気のない澄んだ匂いだった。 継は、絶対に、嘘は…言ってない… けど… 「…じゃあ、この子は誰の子供? どうして『継の子供』って名指ししてくるの? 俺…継を信じてもいいの?」 「俺にも訳が分からない。 とにかく、信じてくれ… 俺には詩音だけなんだ…」 黙って様子を見守っていたお義母さんと右京さんは、顔を見合わせて頷いた。 「継…嘘を言ってないのはよく分かった。 あんたからは嘘の色が見えないから。 詩音君、継は浮気なんてしてないよ。安心して。 井上…井上友梨奈…どこかで聞いたことがある… えーっと、どこだったかな…」 目を瞑って記憶を辿り始めたお義母さん。 お義母さんの脳内コンピューターがフルスロットルで動き出した。 「あーーっ、思い出したぁ! 去年実家の家業を継ぐって退職した、営業部の井上浩志君のお嫁ちゃんの名前だぁっ! 確か彼の実家は、静岡県… …でも、どうして?この子は、井上君の子供じゃないのか?」 凄い…そんなことまで覚えてる…というか、知ってるんだ… 静岡県? そんな遠くからわざわざ来たの? 赤ちゃんを連れて? それともこっちで生んだ? 考えれば考えるほど、疑問が湧いてくる。 重苦しい空気をお義父さんが打ち破った。 「今日の引越しは延期にしよう。 こんな状態で詩音君と仁君をあのマンションに帰せない。 継、いいな。」 「…はい。すぐ連絡します。」 仁を俺に預けると、継が電話を掛けに行った。

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