692 / 829
青天の霹靂⑥
井上さんは、居住まいを正して、継を見つめ返して言った。
「はい!勿論です!
…でも、どうして社長の子供だと…
あっ、奥様っ、余計な心配をお掛けして本当に申し訳ございませんでしたっ!」
深々と頭を下げる井上さんを制して、とにかく落ち着いて座るように勧めた。
気不味い雰囲気の中、何も知らない子供達の笑い声が響く。
仁と優君は自分達より小さな赤ちゃんが気になるらしく、きゃっきゃっとはしゃぎながら、近付いては離れ、また近寄っていく…ということを繰り返していた。
どんな理由があっても、子供を置き去りにするなんて…
嘘をついて他人の家庭を引っ掻き回して、どうしたいんだ…
やっと決心した引越しだって、キャンセルになっちゃって…
怒りと戸惑いだけが大きくなる中、お義母さん達が帰ってきた。
ただいまーっ!
「友梨奈っ!お前っ、何やって」
「はい、ストップ。
ほら、友梨奈さん、和樹君を抱っこしてあげて。」
お義母さんの言葉に、もうウサギのように真っ赤な目の奥さん…友梨奈さんが、駆け寄って和樹君を抱きしめると、床にへたり込んで泣き出した。
肩を震わせて号泣する姿に、込み上げていた様々な感情が冷えていった。
すると優君が、泣いている友梨奈さんの側に寄って行くと、肩をとんとんと叩きながら言った。
「いたいいたい、ないなーい!
いたいいたい、ないなーい!」
それを見ていた仁も、友梨奈さんに近付くと
「なあー!なあーー!」
と言いながら、何度も万歳をし始めた。
お義母さんも友梨奈さんの側に行くと、そっとささやいた。
「うちのお孫ちゃん達も心配してるみたい。
あなたの心の『痛いの痛いの飛んでけー!』って言ってるよ。」
友梨奈さんは、また大泣きし始めた。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!