696 / 829
青天の霹靂⑩
「井上君のご両親?わざわざ静岡から?
さ、どうぞ。」
お義父さんの言葉に首を振り、その場でいきなり土下座するご両親。
「この度はとんでもない事に巻き込んでしまい、大変申し訳ございませんでした。
どのような処分も受けますので、何卒お気の済むようになさって下さい。」
「…いや、どうか頭を…」
そんなやりとりが暫く続き、やっとご両親が頭を上げた。
「…振り返って考えました。
しっかりした若女将になってほしいと思う余りに、私が厳しくしたせいなんです。
自分が耐えてきたから、この子も我慢して当然だと…それは傲慢な考えでした…
友梨奈さん、ごめんなさい。
私の配慮が足りなかった。
あなたに合わせて教えていくから、どうか戻ってきてほしい。」
「女将…」
「“お義母さん”で、いいのよ。ごめんね。」
また友梨奈さんが泣き出した。
結局、お義父さんお義母さんと継。そしてあちらのご両親と井上さんとの話し合いで
『法的な処罰はしないこと。
引越しのキャンセル料は井上家が支払うこと。』
で、話が纏まった。
取り敢えずお引き取りいただいて…みんなもうぐったりしていた。
元気なのは二人のチビ助達だけ。
お義兄さんが
「何か食べよう!
お腹空いたら頭も回らないから。
何でもいいだろ?ちょっと出掛けてくる!」
と、気を利かせて買い物に行ってくれた。
「パパ…何か、もう…気力も体力も…」
「使い果たしたな…みんな、ご苦労さん。」
「うん、頭が回らない。詩音、大丈夫か?」
「…はい、何とか…右京さんは?」
「うん、取り乱してごめん。大丈夫。」
やがて大量の出来合いの物を買い込んできたお義兄さんが帰ってきて、みんな無理矢理にお腹に収めて、ひと息ついたのだった。
まさに青天の霹靂。
こんな事が現実に起こるなんて。
でも…嘘で良かった…
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!