698 / 829

台風一過、その後は②

右京さん…今は落ち着いてお義兄さんにもたれ掛かって目を閉じている。 目元は…まだ腫れている感じ。 まだ少しの怒りと、家族に対する止めどない愛情の匂いが溢れている。 あんなに激昂する右京さんを初めて見た。 あの思いは、友梨奈さんに届いたのだろうか。 いや、届いていると信じたい。 「…詩音?」 優しい声が落ちてきた。 その声に応えるように顔を上げ、鳶色の瞳を思いを込めて見つめる。 ふっ と微笑んだ継は、また俺を抱きしめ、俺達の足元で覚束ないあんよをする仁を抱き上げた。 「ぱぁー、まぁー!」 きゃっきゃっ と無邪気に笑う仁。 仁…人の痛みが分かる子に育ちますように。 この幸せがいつまでも続きますように。 継が抱っこしているうちに、仁はすやすやと寝息を立てて寝てしまった。 「寝ちまった…どうせすぐに起きてくるだろうから、ここに寝かせるか…」 先に寝ていた優君の横に仁を寝かせ、布団を掛けてくれた。 そしてまた、俺の横に座り直すと、今度は横抱きにして抱え込んできた。 「継…みんないますっ!」 小声で抗議すると 「見てごらん…一緒だよ。」 あ…ホントだ… お義父さんはお義母さんの腰に腕を回し、お互いの耳元で何かささやき合っている。 右京さんは…同じく抗うことなく、横抱きにされ甘えるように胸元に擦り付き、お義兄さんはその頭を優しく撫でていた。 さっきからいろんな甘い匂いがすると思ったら… それぞれの番達から愛情たっぷりの匂いが立ち上っている。 勿論、俺達二人も。 「心配させてごめんな。 でも俺は、何が起こっても何があっても詩音だけだから。」 俺は頷いてひと言だけ返した。 「信じてますから。」 満足気に頷いた継は、唇にそっとキスをくれた。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!