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旅立ちを見送る①
大騒動から約二カ月後のある昼時のこと。
「お義母さーん!お代わりある?」
右京さんがご飯のお代わりを強請っていた。
「おや、右京君。
今日は吐き気とか大丈夫なの?」
お茶碗にご飯をよそいながら
「何だかね、夕べから気持ち悪いのがなくなっちゃって…悪阻治ったのかな…
でもね、何だかお腹のオーラがないような…
ねぇ、お母さん…この子大丈夫かな…」
心配そうな右京さんの声に、一瞬お腹を見てハッとしたお義母さんは
「右京君、念のために病院行こう!
次の検診来週だったっけ?そんなの待ってられない!
…あー、もしもし?麻生田です。
いつもお世話になります…
あの、実は………」
お義母さんの慌てぶりに、見る見る顔色が悪くなる右京さん。
「右京さん、とにかく支度しましょう!
優君は俺が見てるから!」
「えっ、あっ、うん。お願いします。
優、お利口で待っててね。」
「あーい!」
パタパタと着替えに行った右京さんから戸惑いと焦りと心配とでごちゃ混ぜになった匂いがする。
そう言えば…いつも、もう一つふんわりと優しい匂いがするのに…
今は、それが…ない。
え…どうして?
まさか…
ドキドキと跳ね始めた心臓に『落ち着け、俺が慌ててどうするんだ』と戒めながら、二人を送り出した。
「まんまー!まんまー!」
仁の声に我に返ると、優君と仁にご飯の続きを食べさせた。
どうしよう。
“まめちゃん”に何かあったら…
ぞっとした。
みんなであんなに喜んで、右京さんは酷い悪阻も楽しみながら頑張って…優君だって『いーこ、いーこ』って言いながらお腹を撫でて…
みんな楽しみに誕生を待っているのに…
神様、お願い!
本当にいらっしゃるなら、まめちゃんを助けて下さいっ!
何でもしますっ!
ワガママも言いません!
だから、だから、お願いします!
ずっと、そうやって必死で祈っていた。
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