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旅立ちを見送る②

二人が出掛けてからどの位経ったのか… チビ助達は、お昼寝タイムへと突入して、部屋はガランと静かになった。 時計の音だけが妙に響いている。 やけに嫌な予感に苛まれ、それを必死で振り払っていた。 ガチャ 帰って来た!? 慌てて玄関に飛んで行くと、真っ赤な目のお義母さんだけ… 「お義母さんっ、右京さんは?赤ちゃんは?」 お義母さんは、泣き濡れた瞳を瞬かせて首を横に振った。 「嘘…え?どうして?何で?」 俺をぎゅっと抱きしめたお義母さんは 「あのね、お腹の中でね…もう亡くなってたんだ… 元々弱い子だったんだね… …明日、お腹の外に出す手術をするんだって。」 やっと言葉を発すると、お義母さんは声を震わせて泣き出した。 「そんな…そんなこと… 香川先生の見立ての間違いじゃないの? ねぇ、お義母さん!」 ガタガタと身体が震えてきた。 「右京さん!右京さんは?」 「…取り乱して…今、睡眠薬で眠ってる。 俺は、入院の準備があるから、急いで駆け付けた潤と入れ違いに帰ってきたんだ…」 ポロポロと涙が零れ落ちた。 「…神様っていなかったんだ。」 「え?」 「俺、必死で祈ったのに。 『何でもするから』ってお願いしたのに…」 「詩音君…」 自分の無力さと、右京さんの気持ちを思ったら、どうしようもなく泣けてきた。 お義母さんに縋り付いて、わんわん泣いた。 涙は後から後から止めどなく溢れてくる。 悔しい。どうして? 何で右京さんが。 まめちゃんが。 悪いこと何にもしてないのに、何でこんな目に遭わなくちゃならないんだ? 「…詩音君…」 目も鼻も真っ赤なお義母さんに頭を撫でられ、顔を上げた。 涙と鼻水でどろどろの顔で。 「…きっと、まめちゃんの寿命だったんだ。 誰のせいでもない、誰が悪いのではない。 あの子は…寿命を全うして天国に行ったんだよ。」

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