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旅立ちを見送る③

ガチャッ 「真澄っ!」 お義父さんっ! 「パパ…右京君のまめちゃんが…」 お義父さんは、泣いている俺達をそっと抱きしめると 「…真澄、病院に送って行くよ。 そんな精神状態では事故を起こしそうだ。 詩音君、あと十分程で継が帰ってくるから、二人で優君をお願いできるかな? 夕飯の支度は継に頼んであるから、何もしなくていいよ。」 「…はい。分かりました…」 「ほら、真澄。しっかりしろ。 …一番辛いのは右京君なんだぞ。 香川先生は二、三日でと言っていたが、右京君の体調次第では、ちょっと長引くかもな。 取り敢えず必要な物だけ持って行けばいい。 足りない物は潤に持たせればいいから。」 「…はい、パパ…」 お義父さんが俺達から腕を解くと、お義母さんは ぐいっ と手の甲で涙を拭いて頷くと、右京さんの部屋へ走って行った。 「詩音君。」 「…はい。」 「まめちゃんは自分で潤と右京君を選んでお腹に宿ったんだ。 たった数カ月だったけど、確かに二人は父親と母親だったんだよ。 きっと訳あって寿命は短かったけど、うちの子として見送ってやってくれ。」 「…っ…うっ…うえっ…」 また泣きながら頷くことしかできない俺の頭を 子供をあやすように撫でたお義父さんの目も、薄っすらと光っていた。 間もなく、両手にスーパーの袋を下げ帰宅した継と入れ替わるように、お義父さん達が病院へ向かった。 ぐちゃぐちゃな顔の俺を見た継も、くしゃりと顔を歪めたが、一つ大きく深呼吸すると、俺をぎゅっと抱きしめてくれた。 何も言わなくても伝わる思い。 あぁ。継も一緒に悲しみを共有してくれてる。 その頃にはお昼寝から覚めたチビ助達が、何も知らずにきゃっきゃっとはしゃいでいた。

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