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疲労困憊⑤
やっと目を開けた右京さんは
「コーヒー、せっかく入れてくれたのにごめんね。」
と言いながら、一気に飲み干してしまった。
「で?今日は忙しかったんだろ?」
「お義母さん、聞いてよっ!
店長ったら『君に任せれば安心だから』って、丸投げしてくるんだよ!
お客様も久し振りの俺を見つけて、どんどん注文してくれるのはありがたいんだけど、その数がハンパなくって!
初日からこんなの…俺、一か月もつかな…
あ!優…保育園はどうだった?
暴れてお義母さん達大変じゃなかった?」
「とにかくゆっくり休みなさい。
家のことは気にしなくていいから。
ほら、先にお風呂に入って。」
「え、でもお義父さん達まだだよ?
俺いつもと同じで大丈夫だから。」
「先に入っとけば楽でしょ?
いいから、いいから。」
「お義母さぁーーん…」
ちょっぴり涙目の右京さんは、お義母さんに背中を押されて出て行った。
やっぱり、右京さんも大変だったんだ。
いくら経験のある職場だとはいえ、お客さん相手で気の使い方が違う。
あの調子じゃあ、お昼休憩もちゃんと取れたかどうか…もしかしてご飯もまともに食べてないんじゃないか。
後で聞いてみよう。
ふえっ、ふえっ、と声がして、優君と仁が揃って起きてきた。
大急ぎで二人の側に行くと、俺をじっと見つめている。
どうしたのかと訝しげに見つめ返すと
「しーお、めっ、め?」
「まぁま、め?」
と聞いてくる。
何のことだと考えていると、あぁ、さっきの爆弾のことだ、と思い当たった。
二人を抱き寄せて
「言うことを聞かなかったり悪いことをしたら『めっ』だよ。
もう大丈夫だね?」
「はーい!」
「あいっ!」
返事だけは百点満点だ。
屈託無く笑うチビ助達を抱っこしてやると、甘えて擦り寄ってくる。
それだけで一日の疲れが吹き飛んだ気がした。
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