732 / 829
疲労困憊⑥
その日の夜…
「…という訳でね、もう大変だったんです!」
「それはご苦労さんだったな、詩音。
孤軍奮闘した訳だ。」
俺の話を継がおかしそうに聞いている。
「お義母さんがね、お義兄さんも継も、手を焼いて本当に大変だった、って。
小さい頃の継って、そんな暴れん坊だったんですか?」
「え?俺?暴れん坊…
まぁ、お袋からは『兄弟揃って大変だった』とは聞いてるけど。
そうだな…
時間に束縛される保育園に行きたくなくて、玄関で靴投げたり鞄投げたりして暴れたことも何度かあったよ。
そしたらついにお袋がキレてさ。
俺の鞄からクレヨンを引っ張り出して
『保育園に行かない子には必要ないよな』
って、バキボキバキボキ…全色へし折ったんだよ。
あの能面みたいな顔は今でも忘れられない…」
「ええっ!?それで?その後ちゃんと保育園に行ったの?」
「問答無用だよ。それから暫くはお利口だったらしいぞ。
ある意味、お袋の方が暴れん坊のような気がする…」
「お義母さん…やっぱり凄い…」
二人で顔を見合わせて笑ってしまった。
「まだあるぞ。」
「聞きたいです!」
「昔、ピーマンが食べれなくてな。
どんなに細かく切っても、味を変えても、入ってたら一発で分かるんだよ。
嫌でぜーったい食べなくてさ。ハンストしたこともあったんだ。
お袋も負けてなくてさ。
毎日ピーマンメインの料理が出てくる訳さ。
こうなったら根比べだよ。」
「それで?どっちが勝ったの?」
「…お袋さ。
あの人、学校にも手を回して、俺だけ弁当持参。それもピーマンオンリーのおかずの。
もう、流石に参っちゃって、もういいや!って食べてみたら…これが美味かったんだよ。
久し振りのおかずでさ。
でもそのお陰で好き嫌いなく育ったんだけどね。
今だと『虐待だっ!』って通報されるかもな。」
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!