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溢れ出る思いside:継①
詩音の怒りと拒絶の匂いを蹴散らすように腕を掴み引き寄せて、力の限り抱きしめた。
ぶわりと甘いフェロモンが詩音を包み込む。
分かるか?
俺がどんなにお前を愛しているのか。
こんなに溢れ出して止まらない程にお前のことを思っているのに。
愛してる、愛しているんだ、本当に。
お前しかいらない。
愛おしくて食べてしまいたいくらいにかわいい俺の詩音。
だから、俺を嫌わないで。
俺を愛して。
暫く抱きしめていると、身を縮こまらせていた詩音の力が、段々と緩み解けていく。
俺の胸にその身体を預けて、くったりとしてきた。
俺の匂いに答えるように、詩音からも甘くて優しい匂いが香り始めた。
「…詩音…」
優しく名前を呼ぶと、ふうっ…と大きく息をした詩音は顔を上げて言った。
「本当に…本当に俺を愛してくれてるんですね…」
「当たり前じゃないか!
詩音以外の誰を愛せばいいんだ?
お前がいなければ、俺はもう、生きる希望も夢も無くしてしまう!
言っただろ?詩音だけだって。
愛してるんだ。
頼むから、俺を愛してくれ。」
情けないが、懇願の言葉しか出てこない。
詩音は俺の顔をじっと見つめている。
その瞳は涙で潤み、揺らめいていた。
自己否定の感情を克服したと思っていた。
詩音の母親の謝罪を受けて、解決したものだと思っていたが、そうではなかったようだ。
長年抱え続けたトラウマは、そう簡単に消えやしなかったのだ。
それなのに、俺が詩音に『抱きたい』『エッチしたい』とそんなことばかりを言ったり態度に表したり、邪魔をする仁を邪険にしたりするから…詩音は『Ωである自分の身体だけが必要とされている』と、考えをすり替えてしまったのだろう。
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