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溢れ出る思いside:継③
チェックインを済ませ、ドアを閉めた瞬間に二人っきり。
本当なら一緒にシャワーを浴びて、朝までまったりと愛し合うはずだった。
俺の思いやりが足りなかったせいで、また詩音を傷付けた。
詩音、ごめん。
ガキみたいな俺を許してくれ。
詩音はもう泣いてはいなかった。
けれども甘さの中に悲しみと、俺に対する申し訳なさといった感情の匂いが渦巻いていた。
「…詩音、おいで。」
呼ぶと、そっと俺の隣に座ってきた。
約10cmの隙間は心の拒否を表しているのか?
俺から近付いて、その距離をゼロにする。
一瞬、詩音は ぴくりと身を竦 ませたが、離れようとはしなかった。
布越しに触れ合う体温はじんわりと俺を癒してくれる。
少し震えているような肩を抱き寄せ、膝に置いた両手を包み込んでやった。
髪を撫で、サラサラのその髪に触れるくらいのキスを落とし続ける。
詩音は俺のなすがままに、じっと動かない。
何を考えてる?
少しは俺のことを思ってくれているのだろうか。
怒ってはいないよな?
匂いは俺を拒んではいないから。
好きだ好きだ好きだ。
愛してる愛してる愛してる。
自制の効かない気持ちが溢れ出る。
俺の番は詩音だけだ。
カラダだけがほしいなんてあり得ないから。
大切な、大切な俺の伴侶。
お腹を痛めて俺の分身を生んでくれた唯一無二の番。
笑顔も、怒った顔も、泣き顔も、拗ねた顔も、全てが愛おしくて堪らない。
俺のこと、嫌いになったのか?
どんなに罵倒されても構わないよ。
俺の側にいてくれるのなら。
詩音は黙って俺に身体を預けている。
少し…甘さが濃くなったような気がする。
俺の気持ちは届いたのだろうか?
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