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溢れ出る思いside:継⑤
詩音が風呂から上がってくるまでのたったの数十分が、途轍もなく長い時間に思えた。
飲まなきゃやってられないか。
ワインクーラーには良く冷えたシャンパンが準備されていた。
シャンパンぐらいじゃ酔いはしないけど、ないよりマシだな。
躊躇したがそれを開けると、自分の分だけグラスに注ぎ、一気に飲み干した。
カチャ
詩音が出てきた。
ボディソープと不安気な匂いがふわふわと漂ってくる。
詩音が酒に弱いのを知っていてワザと誘った。
「詩音、詩音もひと口どうだ?」
「…じゃあ、本当にひと口だけ。」
改めて俺のグラスにも満たし、詩音の分もほんの少しだけ注いでやった。
「はい、乾杯。」
カチリと合わせたグラスの中の泡立つ液体が、俺たちの心のように心許なく揺らめいた。
本当に、ほんのひと口を味わうように飲んだ詩音がグラスをテーブルに置いた。
「…継…」
「どうした?二日酔いになると困るから、おねだりしてももう飲まさないよ。
そうだ!冷蔵庫に色々と飲み物が入ってた。
何がいいかな。見てみるか?」
戸惑いの匂いを醸し出す詩音の手を繋ぎ冷蔵庫まで連れてくると、好きな物を選ばせた。
選んだのは果汁100%のパインジュース。
よしよし。
氷を入れたグラスに注ぎ、片手で詩音の手を繋いでソファーに座り直した。
さっきから詩音は何か言いたげにしているが、俺はワザと気付かないフリをしていた。
「さぁ、ベッドに行くか。
ゆっくり朝寝と洒落込むぞ。」
ふわりと抱き上げてベッドへ運ぶと
「お休み…」
唇に触れるだけのキスをして詩音を抱き込むと、目を閉じた。
肌に触れる詩音の体温が急速に上がっていく。
鼓動が早鐘のように鳴り始めた。
戸惑いと焦燥と誘惑の匂いが鼻を擽るが、詩音が何も言わない限りは、俺からは仕掛けない。
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