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俺か仕事か、どっちだ!?⑤
それは暫く続き…バターン、とけたたましくドアを開ける音がしたかと思うと、ダダダッ、ガシャッ、と誰かが玄関から出て行った。
間もなく、車のアイドリングと走り去る車の影がカーテン越しに見えて、出て行ったのがお義兄さんだと分かった。
右京さんはっ!?
慌ててお義母さんを見やると、『大丈夫』とでも言うように頷いて、お義父さんにひと言ふた言何か告げると、そっとその場を離れて行った。
心臓がドキドキして止まらない。
一体どうなっちゃったんだろう。
多分、早く帰ってきたお義兄さんは、自分より遅かった右京さんが気に入らなかったんだ。
そして、きっと仕事の延長を申し出た右京さんに、お義兄さんがキレて出て行ってしまったんだろう。
右京さん、きっと泣いてる…
「詩音君。」
いつの間にかお義父さんがチビ助達を抱っこして、カウンターの側まで来ていた。
「潤のことは俺に任せて。
詩音君は、後で右京君の言い分を聞いてあげてね。」
「あえてねー。」
「ねー。」
訳も分からず同調するチビ助達が、笑いながらお義父さんに擦り付いて甘えている。
俺ははやる胸の動悸を何とか落ち着かせながら、継に会いたくて会いたくて堪らなくなっていた。
継、早く帰って来て!お願い!
じわりと涙の膜が張ってくる。
泣いちゃダメだ!
…こんな時に落ち着いて座ってご飯なんか食べてられない。
お義母さんならこんな時に、麻生田家特製のうどんを作るんだろうけど、生憎今日はストックがない。
…そうだ、おにぎりにしよう。
俺はいつもより少し多めに米を洗い炊飯器にセットして、大急ぎで簡単に摘めるおかずを作り始めた。
俺は、俺が今できることをやろう。
お義父さんがチビ助達を見てくれている間に、何とか出来上がった。
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