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俺か仕事か、どっちだ!?⑩

継は俺の頬を撫でながら 「親父はああ見えても、子供の扱いは上手いからな。 しかし…あの兄貴があんなこと言うなんて、思いもよらなかったよ。」 「あんなこと?」 「うん。『俺か仕事か、どっちが大切なんだ』って。それって普通、嫁のセリフだろ? よくドラマでやってるじゃん。 あれをまさか自分の兄貴が言ってるなんて、ちょっと衝撃的だったな… まぁ、右京さんを溺愛して心底愛してるから、最近の疲れ果ててボロボロの様子を見ていられなかったんだろうな。 一番の不満は『こと』なんだけどさ。 それも、まぁ、大丈夫だろう。 これで右京さんのオーバーワークも治まるだろうし、少し余裕ができると思うよ。」 俺はもぞもぞと継の胸に擦り付いて 「はい…右京さんも仕事を続けられるし、お義兄さんが理解してくれてご機嫌も直りそうだし…良かったです。」 継は「そうだな」と言いつつ、俺をそっと抱きしめた後、おデコをくっ付けて尋ねてきた。 「詩音は?詩音は家のこと負担になってないのか?大丈夫なのか? お袋がいるとはいえ、仁もいるのに大家族の面倒をみるのは大変じゃないのか?」 「俺は大丈夫です! 困ったり辛かったら何でも相談しますから。心配しないで。」 「そうか…本当に何でも相談してくれるんだよな?自分一人で悩むのは無しにしてくれ。 …俺は?俺のことは?」 「…あの…程々に…」 「程々?」 あ…少しイラッとしている。 「こうやって毎晩ぎゅってしてるじゃないですか。 それではダメなの?」 「ダメというか…詩音…エッチしたい…」 「継…優君もいるんです…今夜は我慢して…ね? 週末…週末ゆっくり過ごしましょう。ね? だから今夜はぎゅってして…お願い…」 返事の代わりに抱きしめられ『俺か子供か、どっちだ!?』と声なき声で不貞腐れる継の背中を撫でながら、俺は吹き出しそうになるのを堪えながらゆっくりと目を閉じた。

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