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芽生え⑥
すっかりご機嫌が直り満足した様子の継は、俺を懐に抱き込んで、ずっと髪を撫で肩や背中を摩っている。
そんな風に触られてると、眠れない。
「…継…もう、そんなに触らないで。眠れないです。」
「え?あ、ごめん。
詩音があんなことしてくれたと思ったらうれしくて、つい。
あぁ…俺って愛されてるんだな…詩音、俺は幸せ者だ。」
「もう…言わないで!恥ずかしいからっ。」
何であんなことしちゃったんだろう。
はしたなくて我ながら呆れてしまう。
「忘れて下さいっ!…お休みなさい。」
「ふふっ。愛してるよ、詩音。お休み。」
甘ったるい匂いを振り撒く継に巻き付かれ、明日のことを考えるとドキドキしてその夜は中々寝付かれなかった。
夜が明け…本日も晴天なり。
ご機嫌な匂いを撒き散らす継を見送り、ぐすりそうな仁の様子に後ろ髪を引かれながらも右京さんと優君にお願いして、俺とお義母さんは少し早めに病院に向かった。
おっと、その前に…
「お義母さん、お願いが…」
「オッケー、“たまごぷりん”だろ?
この時間なら絶対にゲットできる!
うちの分で八個、香川先生の所に二個。
ひと家族十個までだから大丈夫だよ。
支払済にして、うちの分は帰りに取りにくるようにしよう。」
「ありがとうございます!
お義母さんには何でも分かっちゃう。
夕べ、継に『何か隠し事があるだろう』って問い詰められて…子供のことならマズいと思って、ついたまごぷりん食べたのバラしちゃったんです。
継、食べれなくて凹んでたから。」
「あははっ。そうだったんだ。
お留守番の右京君達にも食べさせたいからね。」
そんな会話をしながら無事に人数分のたまごぷりんを手に入れて、ドキドキワクワクしながら病院に辿り着いた。
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