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芽生え⑦

受付を済ませ、紙コップを渡される。 それだけでも何となく気恥ずかしくて身の置き所がなくなってしまう。 まもなく名前を呼ばれて診察室に通された。 縋るようにお義母さんを見ると、頷いて一緒について来てくれた。 「やぁ、詩音君、お久し振り! どう?元気にしてる?ってか、元気そうで何より! 真澄さんも相変わらずお美しくて。」 「やだなぁ、先生。褒めても何にも出ないから。パパがヤキモチ焼くし、伊織さんにも告口しちゃうよ!」 「ああっ、それだけはご勘弁を…」 あははっ 看護師さん達も交えて明るい笑いが起こる診察室。 診察台に横になるように言われお腹をまくられ、バスタオルを掛けてもらう。 看護師さんから「大丈夫だからね。」とにこやかに言われ、少し緊張が解けた。 香川先生は機械にジェルを塗りながら 「ちょっと冷やっとするよー。」 と言いながらお腹に優しくグリグリと当てて… 「ほら、ここ。見えるかな? まだまだ小さいけれど…赤ちゃん、いるよ! おめでとう、詩音君。」 俺はモニターを食い入るように見つめた。 いた!本当にいるんだ! 継…ホントにできちゃってたよ… お義母さんと右京さん曰く『キラキラしたオーラ』の…そうだ、君は“キラちゃん”でいいかな? その時、ふわん、とうれしそうな匂いがしてきた。 そう、気に入ってくれた? じゃあ、お腹にいる間は君は“キラちゃん”と呼ぶことにするね。 「…詩音君、おめでとう…」 お義母さんがそっと手を握ってくれた。 まめちゃんのことを思い出しているのだろう。 少し目が潤んでいた。 その後、色々と予定日やら注意することやらの説明を受けた。 そして先生は最後に 「右京君のことは残念だったけど、彼にはまたご縁のある子が宿るはず。 詩音君は詩音君の思いでこの子を愛してあげてね。」 と言ってくれた。

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