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芽生え⑨
それに答えるかのように、ふわん、とご機嫌な匂いがした。
「あはっ!キラちゃん、キラキラしてる!
うんうん、いい子だ。
詩音君のことをよろしく頼むね!」
ふわんふわん
「ほら、詩音君!分かるでしょ?
この子はちっちゃくて外にもまだまだ出られない子だけど、もう、ひとりの人間なんだよ。
…寿命なんて…俺だって今こうやって元気でいるけれども、明日のことなんて分からない。
だから、今、この時を楽しんで生きなきゃ!
そして誰かのために、楽しいことやうれしいことができたらいいなー…って思ってる。」
「ねっ!」と微笑むお義母さん…
ぼろぼろと後から後から零れ落ちる涙を止める術もなく、お義母さんの優しい匂いと、キラちゃんの心配そうな匂いに包まれていた。
漸く涙が枯れた頃、お義母さんが運転を再開した。
たまごぷりんを受け取り、みんなが待つ家へと急ぐ。
「「ただいまー」」
「まぁまー!おあえりー!」
「まーちゃん、しーお、おかえりー!」
「お帰りなさーい!」
ドタドタと賑やかなお迎えを受けた。
右京さんは俺達二人の顔を見るなり
「やったぁーーーっ!!ばんざーいっ!!」
と声を上げた。
仁と優君も何が何だか分からぬまま、きゃいきゃいはしゃいで一緒に飛び跳ねながら万歳している。
「詩音君…おめでとう…良かった…」
右京さんは息を切らせながら、そっと俺を抱きしめてきた。
俺も右京さんを抱きしめ返して言った。
「…ありがとうございます。
色々と迷惑かけますけど、お願いします…」
「さぁーて、今夜はお寿司にしようか!
パパに電話しなくっちゃ!」
お義母さんがスキップしながら出て行った。
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