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憂慮⑩

二人きりになったリビングで、真澄の嗚咽だけが響いている。 「真澄、俺達も行こうか。」 未だしゃくりあげる真澄を抱き上げると、そっと胸元に手を当てられた。 「…心臓の音が…パパ、生きてる…」 その呟きに胸が潰れそうな感情が湧き上がり、抱く腕に力を込めた。 「ごめんな、真澄。」 「…殴ってゴメンナサイ…痛かったでしょ?」 「お前の胸の痛みに比べたら、なんて事ないさ。」 寝室までの数十秒、真澄の顔にキスの雨を降らせ、ベッドに横たえると少し待つように言い、保冷剤とタオルを持ってきた。 明日、少しでも泣き腫らした目にならないように。 真澄はアリガト、と小さな声で受け取り、それを目に当てたまま、俺の胸にすっぽりと収まった。真澄の身体に腕や足を巻き付けて密着し、耳元でささやいた。 「今夜はこうやって抱いて寝るから。」 こくこくと無言で頷く真澄からは、安堵と愛情深い匂いがしてくる。 その匂いを吸い込んで、愛情たっぷりのキスをひとつ送り、抱き直して目を閉じた。 「お休み、真澄。愛してるよ。」 「お休みなさい、慎也さん。愛してます。」 ほう…と大きく息を吐いた真澄からは、程なく小さな寝息が聞こえてきた。 どれだけ胸を痛め、どれだけ泣いたのか。 頬の乾いた涙の跡にそっと口付ける。 寝付いてもなお、真澄からは甘い甘い匂いがしてくる。 これ程までに番に愛され求められる俺は、なんて幸せ者なんだろう。 俺の勘違いから思いっ切り悲しませ泣かせてしまい…でも真澄には申し訳ないが、泣き顔もなかなか良いもんだとドSな本性が顔を出してきた。 「愛してるよ。」 もう一度ささやき、とんでもなく長い一日を終えた俺はゆっくりと愛おしい伴侶を抱きしめた。

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