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思い合う夜 side:右京①

かちゃ 「…右京…親父がごめんな…」 ドアを閉めた途端に潤に抱きしめられた。 子供のように頭を撫でられ、背中を摩られる。 もうその頃には涙も乾いて落ち着いてはいたが愛しい番に宥められて、またさっきの感情がぶり返してきた。 「…お義母さん…」 「ん?お袋が何だ?」 「あんなに、声を殺して泣くお義母さんを初めて見た。 …もし、もし、潤にそんなことがあったら、俺は…」 ぶわりと涙が溜まってくる。 押さえようのない恐怖に全身が震える。 嫌だ!嫌だ! 離れたくない、潤を失うなんて考えられない。 どうしよう、どうしたらいいんだろう。 きっと俺は軽いパニックに陥っていたんだろう。 「右京。」 穏やかな低い声が俺の名を呼ぶ。 俺の両頬に手を添え、じっと瞳を見つめてくる潤。 そっと右手を取られ、潤の心臓の辺りに押し付けられた。 トクトクトクトク 手の平に、潤の生きている音が響く。 「俺はちゃんとここにいるよ。 病気にならないように節制するし、体調管理も今まで以上にやるから。 そんな簡単にくたばる訳ないだろ? だから、泣くな。」 ポロリとひと粒溢れたら歯止めが効かなくなった。 「…うっ…くうっ、潤っ…くっ…」 「…だから、泣くな、右京…」 潤の逞しい腕にすっぽりと包まれて、いい子いい子と頭を撫でられる。 耳を押し付ける胸元からは、規則正しい命の音が聞こえてくる。 顎をくいっと持ち上げられて、触れるだけの優しいキスを受け取った。 いつも強引な潤がこんな優しいキスを……ゆっくりと離れた唇を戸惑いながら追い掛け、俺からキスを仕掛けると、ふわりと身体が宙に浮いた。 そのままそっとベッドに横たえられ、前髪を掻き上げられた。

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