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希少価値①
俺は橋下 詩音。
地元でも結構名の知れた会社の社員だ。
肩書きはなく営業補佐をしている。
バース検査は…『スーパーΩ』…Ω中のΩと言われる純粋なΩ…
無限の愛を相手に注ぎその愛を一身に受け、相思相愛のαとの間に子を成せば、高い確率で『スーパーα』と呼ばれる世界を統べるαを生む…と言われている。
昔はこのスーパーΩを巡って戦争まで引き起こされたこともあった曰 く付きのバースだ。
ふた昔前までΩという人種は、人であって人でなく、奴隷以下の扱いを受けていた。
ところが、αの出産率が一桁以下に減少していくにつれ、世界的規模で進められた研究の結果、Ωはαがこの世に存在するために必要な存在であることが徐々にわかってきて、今まで迫害の上に迫害されてきたΩの立場が見直されてきたのだった。
それでもなお、未だにΩに対する偏見は消えはしない。
スーパーΩと診断された瞬間から国から多大な庇護を受け、その一生を保障されるようになった。
攫われたり水面下で監禁されることのないようその安全を確保するという大義名分の元、出産後直ぐにGPSを体内に埋め込まれた。
結婚に関しても一応その意見を尊重した上で行われ、無理矢理にということもなくなったと聞いている。
俺はα×Ωの両親から第三子として生まれた。
四つ上の兄と二つ上の姉はどちらもαだった。
Ωで、それも男で、おまけに希少価値の高い『スーパーΩ』…という俺に、両親達はびっくりしたらしいが、分け隔てなく俺を愛情たっぷりに育ててくれた。
この非常に珍しいバースを持つ俺は、幼い頃から研究対象になっていた。それはバース研究がほぼ極められ落ち着いた頃…俺が大学を卒業するまで毎月の検査は続いた。
今では年に一度でよくなったから、まだマシだ。
定期的な検査のために病院へ行く度に、両親は申し訳なさそうな顔をしながら、それでも毅然とした態度で振舞っていた。
小さな腕に付いた注射の跡を撫でては
「詩音、あなたはあなたのままでいいから。
逞しく生きるのよ。」
母は涙を浮かべながら微笑んでいつもそう言っていた。
バースについての知識が増えていく度に、他人とは違う己の身を呪ったこともあった。
自らの命を断とうとしたこともあった。
けれども、すんでのところで思いとどまれたのは、決して俺を排除せず愛してくれた家族のお陰だった。
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