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回想②

推薦状と履歴書を郵送し、逸る気持ちを抑え向かった面接先。 「どうぞ」 ノックの音と共に発せられた声に促され、ドアを開けた。 面接官は三人。あぁ、三人ともαか。 αでありながら、独特の圧迫感がない。 真ん中の人は…確かパンフレットに載ってた…社長!? 作り笑いではない微笑みと優しい光を灯した瞳に、顔の強張りと肩の力が抜けた… 「こんにちは。どうぞお掛け下さい。 橋下 詩音君…月並みな質問ですが、どうして我が社を選んだのですか? 君の能力や成績なら、うちよりももっといいところがあったはずなのに。」 ほらきた。面接の常套句。 俺は、そつなく答えた。 「書類に記入されてある通り、私はΩです。 御社はどんなバースでも、個人の能力をしっかりと見極めて対等に仕事をさせて下さるところだと伺っています。 自分の種別を気にせずに集中できる環境は有り難いと思います。 私が希望する営業の後方支援の業務も魅力的です。取得している資格を発揮できると思います。 そして何よりも、御社が地域の方に愛されているということです。 春先に御社の前を通りかかった時、営業の方と御近所の方との会話が耳に入ってきました。 『おや、マサ君久し振りやなぁ。気ぃ付けて行っておいでや。』 『あー、おっちゃん、元気そうやな。行ってくるわー。』 このやり取りだけで、社内の様子が分かる気がしました。 自分もここで働きたい。 そう思った出来事でした。」 くっくっくっ マサ君か…アイツらしいな… 三人は面白そうに笑いながら小声でひそひそと話していたが、社長がじっと俺を見つめ、その視線に腹の底まで見透かされているような気がした。

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