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回想③

「模範解答。流石ですね。 …橋下君、君の本音はまた別でしょ? 私達しかいないから、ぶっちゃけて吐き出したらどう? それを聞いたからって、合否の参考にはしないよ。」 にこにこと笑いながら社長が爆弾投下した。 両サイドの二人も『何言い出した?』って顔してる。 聞かれた俺もキョトンとして。 この人、何考えてるんだろう。でも、俺を見つめる目は邪気がなく涼やかに澄んでいる。 …聞かれたからには答えないと。だろ? 姿勢をしゃんと正し、社長の目を真っ直ぐに見て答えた。 「では…遠慮なく…気分を害される発言がありましたらお許し下さい。 私の本音は… Ωの自分が、将来一人でも真っ当な生活を送るための基盤が欲しい…ということです。 私がこの世にある以上、嫌でもこの性別は私の人生に影響します。 何度も…命を断とうと思いました。でも、その度に家族の顔が浮かんで思いとどまりました。 家族の負担にならず、他人様にも迷惑をかけない…できればこんな自分でも何か役立つことがしたい…誰かに必要とされたい…この気持ちは自分だけでなくΩなら誰しもが持ち合わせていると思います。 前を向いて胸を張って生きたい…ただそれだけです。」 淀むことなく…言い切った。そう、一人でもいい。胸を張って生きることができればそれで。 ふんわりと社長が微笑んだ。 「ありがとう。『一人で』かどうかは別にして君ならできると思いますよ。 これで面接は終わりです。お疲れ様。 気を付けてお帰り下さい。」 「お時間をいただきありがとうございました。 失礼致します。」 ドアを閉めた瞬間足元が崩れそうになった。 懸命に堪えて歩き出す。 あんなこと伝えてよかったのか? 『何もありません』と無難に逃げればよかったのか? ダメなら教授に頼んで大学に残してもらおう… ぐったりと異常なくらいに疲れて果てて家路を急いだ。

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