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回想⑦
その日を境に俺は『何でも一人で』と肩肘を張るのを止めた。
もし一人で生きることになっても。自然に俺らしく生きようと。
でも…少しくらい夢見てもいいよな。
雰囲気が柔らかくなって明るくなったと言われるようになった。
今更ながら、少しずつたわいないことを話す友達もできた。
何かが俺の中で変わりつつあった。
そうして迎えた入社式。
俺の配属は希望通り営業の後方支援。
中田正隆 部長から簡単な紹介を受けた。
この会社を選ぶキッカケになった『マサ君』は中田部長だったのだ。
「橋下詩音君だ。
今日からうちの子だからな、みんなよろしく頼む。
柏木!休みに入るまで面倒見てやってくれ。」
(柏木もΩだから。困ったことがあったら彼に言うといい)
こっそり耳打ちされて吃驚した。
「柏木柚月 です。俺もΩだから…
何でも聞いて。」
「あっ、ありがとうございます。どうぞよろしくお願い致しますっ」
昼休み、柏木さんに連れられて持参した弁当を持ち食堂へ行くと、中田部長もやってきた。
「柚月、一緒に食べようぜ。」
「中田部長、社内では苗字で呼んで下さい。」
あの…えーっと…えっ?あ、薬指の指輪…
「あ、俺達、夫夫 なんだ。来月、こいつ産休に入るから。
それまでに覚えてもらわなきゃならんこと山程ある。
橋下、頼んだぞ!」
満面の笑みで、にかぁーっと部長が笑った。
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