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惹かれ合う番③
side:麻生田 継
親父の隠居に伴い、研修先から呼び戻された。
『まだ俺は未熟だから』と何度も辞したが、『元気なうちに今まで苦労させたかーちゃんとイチャラブしながら旅行がしたい』と駄々を捏ねて押し通された。
まだ引退って年じゃないだろうが。現役バリバリのオッサンのくせに。
このとんでもない理由に経営陣達も『仕方ありませんな』と苦笑しながも、なぜかあっさりと承諾してしまった。
そんなバカな。
確かにこの会社がここまで成長したのは、下積み時代に苦労してきたお袋のお陰で、その貢献度は物凄く高い。
お袋に文句を言うと『あの人は一度言い出したら聞かないからな…お前もわかってるんだろ?
俺は旅行はいいけど、別にイチャラブしたい訳では…』とこちらも困惑気味だった。
そう、俺のお袋は男のΩ。頭のキレるやり手の営業マンだったそうだ。
だからと言って、まだ経験不足の俺を社長に据えるなんて横暴だろ?
「継さんなら大丈夫ですよ。我々もしっかり支えますから。」
幼い頃から旧知の幹部に言われて渋々着任することになってしまった。
就任前日、久し振りに訪れた社内はいい雰囲気で、これならいけそうだという妙な自信と安心感があった。
絶対に会社も社員も守っていく。
バカな二代目だと言わせるもんか。
生来の負けん気に火が着いた。
と、突然どこからか甘く俺を誘う香りがしてきた。心臓が飛び跳ね、俺からも相手を誘うフェロモンが溢れ出す。
これは…Ω?こんな匂い…嗅いだことない。
甘くて官能的で愛おしい匂い。
辺りを見渡すがわからない。
会いたい、会いたい
抱きしめて吸い付きたい
俺で満たして孕ませたい
獣じみた感情に支配されそうになる。
ダメだ。
急いで常備してあるピルケースを取り出し、薬を噛み砕いた。
大きく深呼吸しているうちに次第に落ち着いてきた。
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