25 / 829
もどかしい想い⑥
「住所、氏名、家族構成…はそこに書いてある通りだ。
彼は…Ωの中でも特別な『スーパーΩ』なんだ。
俺の研究室にも彼のサンプルがある。
普通のΩとは違って、番ったαの能力以上のものを引き出し、必ず純粋なαを生むと言われている。
管理するために、スーパーΩには生まれた時 GPSが埋め込まれるのを知ってるよな?」
俺は黙って頷く。
「特別なΩである故に、月イチで病院に連れて来られ、血液検査やら脳波やら、身体の細部まで調べられて…それでも逃げることもせず文句ひとつ言わずこなしてきたんだ。
並みの精神力じゃない。
αであるご両親も兄姉 も、Ωだからと邪険にせず、愛情を掛けて育ててこられたようだ。
面接の時の内容は…親父さんに直接聞いてみるといい。番関係のことは薄々気付いているから、大丈夫だよ。
内定を受けてしばらくしてからな、付き纏っていたα達に襲われたことがあった。
彼に付いてるSPのお陰で身体は傷ひとつ負わなかったんだが、受けた行為と卑劣な暴言で、今まで少しずつ入ってた心のヒビが大きくなったんだろう、引き篭もった時もあったそうだ。
それでも義兄 達…兄姉の伴侶もΩだそうだ…に支えられ立ち直り、Ωとして一人でもしっかり生きていくと決めた…そういう子だ。
芯の強い、それでいて我慢に我慢を重ねてきた分、弱くて脆い。
番の愛を失えば、儚く消えてしまうだろう。
まだ非公開なんだけど、昨日までの学会でね、改めてΩの存在意義を証明する研究発表があったんだ。
前々から言われてたことなんだけど…
αはΩのための存在なんだ。世の中の頂点に立つのは実はΩだったんだ。
αがこの世に存在するためにΩがいる。
αを愛して愛されるための絶対的存在。
Ωがいなくなれば、αもいなくなる。
もっと早くにわかっていれば、認めていれば、この世は変わっていたかもしれない。
継…君の愛で、傷付いた君だけの番を癒してあげてくれ。
あの子を救えるのは君しかいないし、あの子しか君を愛せない。」
一気に話し終えると、香川先生は俺の頭をわしゃわしゃと撫でて微笑んだ。
「よかったな、『魂の番』に出会えて。」
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!