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出会い:side 継①
俺は詩音の休暇明けを一日千秋の思いで待ち続け、山のような自分の仕事をかい潜って用事を作っては幾度となく営業課を覗きに行った。
その度に接客中や電話応対、もしくは外出中で…詩音が社内にいても俺が仕事中で…会う機会が全くなかった。
これだけすれ違うとかなりのダメージを受けている自分がいた。
詩音の残り香だけが俺を優しく包んでくれていた…あぁ、ホンモノに包まれたいし抱きしめたい…
そんな俺の事情を知ってて知らないフリをして黙って見守ってくれる、口の硬い社員達に感謝していた。
ただ一人、中田部長だけは俺を揶揄っては楽しんでいた。
「社長…しつこいと嫌われますよ。いつも入れ違いで中々会えませんねぇ。
ご縁がないんじゃないですか?うっひっひ。
社長権限で呼び出して直接話せばどうです?」
「…うるさい。そんなパワハラみたいな…人一倍繊細な詩音にそんなことできるかっ。
お前だってそうだったんだろ?自分のことは棚に上げて…
自然に…出会いたいんだ。ほっといてくれよ。」
そんなやりとりが続いたある日。
濃い匂いが営業部から香ってきた。
詩音だっ!
今日は会える??
ノックをする余裕もなくドアを蹴破る勢いで開けた。
目の前に飛び込んできたのは、待ちに待って恋い焦がれた愛おしい番。
ぶわっとお互いのフェロモンが全身から放たれる。
間違いない、俺の…番だ。
ただ無言で詩音の元へ近付いていく。
「あの…?申し訳ありませんが皆外出しておりますが、お約束でも?」
怯えたような目で俺を見つめるが、詩音からますます甘い香りがしてきて堪らない。
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