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俺達、結婚します⑨
一瞬の沈黙の後
「麻生田さん、どうぞ頭を上げて下さい。」
穏やかな父親の声がした。
安堵して顔を上げると、橋下家全員が泣きそうな顔をして俺を見ていた。
「ご存知でしょうが、詩音は『スーパーΩ』として生まれてからずっと、今まで随分辛い思いをしてきました。
Ωという性別のハンデだけではなく、詩音は『特別』なんです。
…時機がきたらお話するとしましょう。
私達も出来うる限りの愛情を注いで育ててきたつもりです。
ようやく…本当の幸せを掴めるんですね。
麻生田さん、昨夜わざわざあなたのご両親からも連絡がありましてね…
『息子が勝手なことをして申し訳ない。私達も挨拶に行けず不義理をして申し訳ない。
でもどうか結婚を許して頂きたい。』
と、それはそれはご丁寧な言葉を頂戴したんですよ。
本当にありがたかったです。
どうか詩音を幸せにしてやって下さい。こちらこそどうかよろしくお願い致します。
籍も…あなたさえ良ければ、直ぐにでも手続きをしてやって下さい。
詩音…よかったな。父さん、本当にうれしいよ…」
そう言うと、目を真っ赤にして男泣きに泣いた。
母親がそっと寄り添って泣いている。
俺はそっと手を伸ばし、震えて嗚咽する詩音の手を握りしめた。
『特別』って何だろう…詩音に何か秘密が?
「麻生田さん…」
「はい。」
「俺達のかわいい弟をどうかよろしくお願い致します。」
「はい!俺の命に代えても大切にします。」
「麻生田さん…詩音、何でも溜め込むタイプだから、気を付けてやってね。我慢しすぎるところがあるの。変に冷静に見えるし。
天邪鬼だから、本音を言ってない時もあるのよ。」
「姉さん!そんなこと言わなくっても」
「はいはい、ごめんね。」
「ははっ。そんなところも全部引っくるめて受け止めますよ。」
「やだぁー、もう惚気!?」
リビングが温かな笑い声に包まれる。
詩音は…潤んだ目で俺を見つめ花が綻:(ほころ)ぶように微笑んだ。
それが何とも美しくて見つめていたら、また義兄さん達に揶揄われた。
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