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第3話 (3)

*** 「いてて・・・・・・」 志津は打撲した左腕を軽く押さえた。 案の定、今日は他校の喧嘩の加勢しに行ったのだ。蒼井に忘れるなと言われたのはこのことだった。 前から人数を合わせる為に行くことは決まっていたので、急に止めることは出来ない。結果は両成敗で終わった。 総司との事もあり、むしゃくしゃしていつもより派手にやらかしたかもしれない。 家の前に着くと志津は弟達にバレないよう、自分のか相手のか分からない血で薄く汚れ、しわくちゃになったシャツを制服の上着を着て隠した。 「兄ちゃんおかえりー!」 「ただいまー」 家の中に入ると玄関扉が開いた音で気付いたのかいつものように、大成と潤が駆け寄って出迎えてくる。 可愛いくて無垢な笑顔。この時ばかりは喧嘩して来てごめん、と罪悪感が生まれる。 「兄ちゃん、兄ちゃん!お客さん来てるよ!いけめんさん!」 「客?いけめんさん?」 大成が少し興奮気味に話す。『いけめんさん』、なんて言う知り合いなんていただろうか。 志津は誰だろう、と思いながら弟達に手を引かれて居間に向かった。 「お邪魔してます」 居間は畳が敷かれている部屋だ。 テーブルの前に正座をして待ち構えていた人物に出迎えられて、志津は目を丸くする。 「な、な、なんで先輩が!」 総司は志津の驚く顔を見てにっこりとさせた。 家の場所は大体この辺りだと教えていた。後は表札でも見て辿り着いたのだろう。 「兄ちゃんの先輩、いけめんでびっくりしたよ!兄ちゃんと同じ制服着てたし、弁当箱忘れたからってわざわざ届けてくれたんだよ!このお弁当箱に兄ちゃんが朝おかず詰めていたの見てたから知らない人じゃなさそうだし、待っててもらったんだ!」 大成はご丁寧にお茶まで出して招いてくれたようだ。 (いけめんさんってイケメンって意味だったのか) 志津は拍子抜けて力が抜ける。 (確かに男の俺から見てもかっこいいほうだとは思うけど・・・・・・) 総司を見やると潤は総司の膝の上に座って黄色のクレヨンを握った。 お絵描きをして遊んで貰っていた途中だったのだろか。描きかけの絵に加筆している。 「見てみて!折り紙でクワガタ作ってくれたんだよ!後、剣と兜!カッチョいい!」 大成は新聞紙で作った兜を被り、剣をブンブンと振りかざす。 クワガタはテーブルの上に並べられて、恐竜が描かれていた絵も一緒に置かれていた。 総司が描いたのだろ。資料に載っているような立体感のある恐竜が上手く描かれている。 潤はうっとりと見惚れていた。 (俺のポジション取られかけてる・・・・・・!) 弟達はすっかり総司の虜になっていた。 「先輩は志津兄ちゃんのお弁当食べたんでしょ?美味しかった?」 大成は総司の前に近寄り、感想を求める。潤も振り返って見上げるように総司の顔を見た。 総司はそんな二人に向けて笑顔を返す。 「うん、美味しかったよ。俺の好きなウサギも器用に作ってくれたしね」 「兄ちゃん良かったね!早起き苦手なのに今日は目覚まし三個も掛けて朝早く起きて頑張ってたもんね」 「ふふふ。そうなんだね」 志津は二人の会話を聞いていて、今にも顔から火が出そうになる。 ウサギの事も昼休みの時には何も言われなかったので気付いてないのだと思っていたのだが、こうして言葉にされると嬉しくてニヤけそうになった。 (って、俺と先輩は喧嘩中だろ!) 昼休み、あんな形で会話が終わってしまい怒っているだろうと思っていた。なのに、今目の前にいる総司はにこやかだ。逆に怖く感じる。 「と、とりあえず、俺の部屋行こうか・・・・・・」 総司の目的は、お弁当箱を返しに来ただけではないだろう。 弟達は名残惜しそうにするも、志津は居間から総司を連れ出した。

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