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第3話 (4) ※
居間から少し離れた一番奥の部屋に入り、志津は鞄を床に降ろした。漫画本や寝る時に着ていたスウェットで少し散らかってはいるが、朝はバタバタとしていて片付けをしている暇は無かった。
ここからどうしようかと佇んでしまう。
「志津の弟くん達、可愛いね」
先に口を開いたのは総司だった。志津は当然だろう、と得意げに頷く。
「連絡した所で無視されて焦れったくなるのも嫌だし、直接話した方が早いかなって思って」
次の会話で、総司が本題に切り出した。志津はヒヤリとして口元を引き締めた。
「それに、ここなら昼休みの時みたいに逃げられないだろうし」
背後から静かな声で耳打ちされる。背筋がぞわっとして、志津の掌が汗ばんだ。
大声を出して喧嘩なんてしたら、弟達に心配を掛けてしまう。逃げ場所もない。総司はそこまで計算をしていたのだろうか。
「制服、汚れてるよ。まずは着替えたら?」
弟達の事は欺けても、総司は昼休みの時にはさほど汚れていなかった筈の、ズボンに付いた土埃を見逃さないでいた。志津はまるで拷問に掛けられているようだ、と段々と苦しくなる。
「じゃあ、着替えるから、後ろ向いてて・・・・・・」
志津は覚悟を決めて上着を脱ぐことにした。脱ぎ散らかったままのスウェットに着替えて制服を鞄の中に丸め込んでしまえば、バレないだろう。
総司が後ろを向いた背中を確認してから、上着を脱いだ。次にシャツのボタンを外して・・・・・・と、気持ちばかりが焦って手がもたついてしまう。
「ああ、やっぱり。志津、シャツに血が付いてるよ」
「・・・・・・!」
志津の動きが固まる。総司は志津の言う事など聞かず、ばっちりとこちらを見ていたのだ。
(な、なん、えっ、ええ!?)
声にならない程の叫びを、心の中で叫ぶ。
「ねえ、志津。俺が言ったこと覚えてる?」
艶のある笑を浮かべる。ここぞとばかりに、総司は近付いて志津の顎をクイッとあげた。
「なんの・・・ことデスカネ」
志津の目は完全に泳いだ。この反応は、ばっちりと覚えている証。
「しらばっくれるなんて俺、怒るよ」
「でも、俺は無理だって・・・」
言った筈だ。そう言いたかった。
それよりも先に柔らかな感触で体が支配された。サラサラな髪が頬に当たり、その柔らかな感触、唇が左目元に落とされた。
ほんの小さな、擦り傷。総司の鋭い目が見落とさない。
「ちょ、ちょっとたんま!本当に、・・・・・・するの?」
「うん、するよ。志津が、怪我した所に全部ね。唇が切れてたら口にしていたけど、今回はそこは無しかな」
唇をぎゅっとさせている志津を見て総司はクスクスと笑う。志津はキスと言うものだから、唇にされるとばかり思っていたのだ。顔はみるみる熱を帯びた。
「じゃあ、服脱ごうか」
総司は生き生きとし、志津のシャツを脱がせた。白い肌と程良く付いた筋肉が露になる。
「わー!わー!追い剥ぎー!」
必死に抵抗するも、そのままベッドに押し倒された。
「犯罪じみたこと言わないでよ。ただの身体検査、だよ」
言葉に語弊があったとしても、これからされる事は同じだ。逃げようとしたが、両手を上にがっちりと掴まれて解けない。
「痛っ・・・・・・!」
腕を振り払おうとしたが、痛みが走った。
「腕、痣できてるね」
総司の言う通り、喧嘩で相手の蹴りを防御しようとして出来た痣だ。赤色が痛々しさを表す。
馬乗りになっている総司の表情は真顔でいて、怒っているのか哀しんでいるのか分からない。総司を見ているのが怖くなって、志津は顔を逸らした。
総司は深く息を吐いてから、そっと優しくその場所に唇を当てる。
「うっ…」
本当にされてしまった、と出そうになった声を押し殺し、志津の顔は一気に熱を帯びた。
「肩、腕、脇腹・・・・・・あ、ここにも」
次々と唇を落とされては、体がいちいちビクッと反応する。痛くないように軽くしてくれている優しさも伝わって来ていた。
「先輩っ・・・・・・、もう、いいだろ・・・・・・?」
変な声が出ないように堪えながら、弱々しく終わりを求めた。
「まだ、ダメだよ。傷付いている所全部にキスするまで止めてあげない」
「そんなっ・・・・・・あっ・・・・・・、やっ・・・・・・んっ」
まだまだ続く事が分かると、我慢していた力が抜け落ちる。部屋の中は、自分から漏れる声とリップ音で甘い空気が漂っていた。
感覚が痺れて行く意識の中、弟達の甲高い声を上げて騒いで遊んでいる声が聞こえる。夕方から始まる戦隊もののテレビに夢中になっているようだ。
部屋に近付いて来ることはないだろう、と頭の片隅で安堵する。
「志津、喘ぎ方がエロい。感じてるの?」
総司はクスリと笑いながら言った。
志津は恥ずかしさの余り、頬を染めて目尻に涙を浮かばせる。誰のせいだと責め立てたいが、こんなにも自分の体が敏感に反応するなんて思いも寄らなかった。
しかもいけないことをしている気分になり、乳首はピンと立ち下半身が疼き出している。
「次は、下だね」
「えっ、だ、ダメ・・・・・・!絶対、ダメ!」
志津は今見られたら気付かれてしまうと焦って足をじたばたさせるも、力負けしてズボンを引き摺り下ろされてしまった。
「下着がきつそうだね」
総司はチェック柄のボクサーパンツを履いた股間の膨らみの異変に気付く。
男に感じて勃ってしまうなんて恥ずかしい。志津は全身がカッと熱くなった。
追い打ちをかけるように、小さなかすり傷が付いた太ももを持ち上げられてはチュッとわざとらしく音を立てて攻められて、完全に勃ってしまった。
「っ・・・、先輩っ、俺こんな屈辱受けたくない」
「志津が俺の言う事を守れなかった罰だよ。言っても分からないなら体に覚えさせるしかないだろ?」
すっごくエグい事を言われているような気がする。志津はゴクリと息を飲んだ。
「怪我してる所は・・・・・・もう無いかな」
やっと解放される。けど、このモヤモヤとした感じが残っていて「先輩っ・・・出したい」と、志津は口走ってしまっていた。
総司は一瞬驚いた顔をするが、柔らかい表情へと変えた。
「あ・・・・・・!やっぱり今の無し!無しで!」
志津は慌てて否定する。なんて事を言ってしまったのだろうか。動揺を隠しきれず、おろおろとする。
「ここ、痛いんでしょ?」
総司に下から上へとなぞる様に、長い人差し指で触れられた。
「ひゃっ・・・・・・」
ビンっと張り詰めて痛い。志津は顔を真っ赤にさせてゆっくりと頷いた。
総司はフッと笑い、志津の下着を半分まで下ろす。そこから大きく反り勃った物が姿を表した。
志津は羞恥心いっぱいで、また涙を溜め込む。
「志津、そんな顔しないで。煽るだけだよ」
「煽ってなんか・・・・・・あっ」
先端をクイッと触られる。自分から溢れ出た蜜でぐちょぐちょと水っぽい音を立てた。
止めさせようと手を出すが、総司に阻止されてしまう。
「志津自身が気持ちいいって言ってるみたい」
些か興奮気味に聞こえる。総司の手に自身を握れて志津は大きく腰を反らせた。そのまま手が上下に動かされる。
「あっ、はんっ・・・・・・あ・・・・・・んっ」
気持ちよくなって行く快感に声が大きく出そうになると、総司は後ろから抱き抱える体勢に変えて、志津の口を手で覆った。
「エッチなことしてるの、バレちゃうからね」
「ふっ・・・んっ・・・・・・んっ」
エッチな事。そこまで持って来たのは、総司のせいではないだろうか。それよりも、頭と体とて変になりそうだ。今の自分は、雰囲気に完全に飲まれている。
「背中の傷にも、キスするの忘れていたね」
「あっ・・・んっ」
またわざとらしくリップ音を立て、柔らかい唇が背中に触れる。力などとうに入らず、体全てを支配されている様だ。
(イキたい。イキたい。イキたい・・・・・・!)
早く絶頂を迎えたくて、総司に覆われいる手を必死に掴んだ。
「ねえ、志津。もう喧嘩しない?」
ここで悪魔の囁きが耳近くで入る。張り詰めてイキそうになっていることが分かっていて、ここぞと駆け引きをして来たのだ。
手の動きも緩められて、もどかしさが増す。志津の自身は糸を引いてヒクヒクとさせていた。
なんてズルい人なのだろうか。
「しないっ、しないからっ、イかせて」
すがるように甘い声を吐く。総司はいいよ、と優しい声で呟き一気に扱かれて志津は体が震えた。果てた意識で自身の先を見ると、総司の指は、どろっとした白濁で汚れていた。
「はぁ・・・・・・、はぁ・・・・・・先輩の手、汚して・・・・・・ごめん・・・・・・」
「大丈夫だよ。よく出来ました」
そう言って何故かぽんぽん、と頭をなでられた。───恥ずかしい。今はそんな気持ちでいっぱいだ。
「俺はね、心配してるだけなんだよ。志津が傷ついたりすると、悲しむ人がいることを分かって欲しいんだ」
総司は言葉通り、少し悲しげな顔を見せた。志津の心がチクリと痛む。
「分かった。努力はする・・・・・・と思う」
男同士でも、こういった仕方があるなんて、全然考えていなかった。総司からしてみればお試しで付き合っているようなもので、自分の事を好きではない筈だ。
なのになぜ、こんな事が出来てしまうのだろうか。一線を越えてしまう前に、なんとかしなければならないのかもしれない。
どうこう考えていると、喧嘩した疲れもあって眠気が襲って来て瞼を閉じた。
『志津、母さんと大成達を守ってくれよ』
『男なら、男らしくしてろよ!』
二人の影に、頭の中で語り掛けられる。過去に言われたことがある言葉だ。
強く、強くいないと行けないのに───。
処理をして、服まで着せ終えてくれた総司の腕の中に抱かれる。温もりと、この甘い匂いに心臓がどきどきと鳴り出した。
(・・・・・・なんで、こんなにどきどきしてるんだ?)
そのまま体は沈み、眠りに落ちて行った。
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