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第3話 (2)

*** 今日は一緒に帰れない代わりに、総司とお昼ご飯を食べる約束をしたのだ。 食堂で食べようと言われたが、噂も立ち始め周りの目が気になるので弁当を作って持って行くと申し出た。 昼休みを一緒に過ごすのは初めてだ。持っている手提げについ力が入ってしまう。 机と椅子が後ろ側に寄せられて使われていない教室に入ると、総司が先に来ていて出迎えてくれた。 自分に笑って向けられる目と目が合い、不覚にもドキッと心臓が跳ねる。 普段は鍵が掛かって入れないらしいが、総司は何故か鍵を持っていた。理由を聞くと以前、役員で集まりがあった時に鍵を返しそびれてその時に内緒で合鍵を作ったと教えてくれた。 意外と抜かりがない。 ただ、日当たりもよくて絶好の場所だなと志津は思った。 「まさか志津の手作り弁当食べれるなんて嬉しいよ」 総司は床に座り、ランチマットに広げられたお弁当から唐揚げを箸で取って頬張る。どれも美味しそうに食べてくれる姿を見て、志津までも嬉しくなった。 「弟達に朝ご飯作ってるからついでみたいなもんだし」 大したことはない、と自分で作った卵焼きを食べながら照れ隠した。が、実際はいつも以上に気合いを入れて作ってしまっている。 家族以外に自分の料理を食べてもらうなんて、滅多にない。美味しい物を作ろうと、自然と力も入るだろう。 ただ、小さい弟がいるせいか、ウィンナーをタコの形にしたり、ご飯と海苔を使ってウサギ模様にしたり野菜で星型を散らしたりと可愛く作り過ぎてしまったかもしれない。 「そっかそっかあ。志津は偉いな~」 志津は頭に手を置かれて、総司に撫でられた。大きな掌から優しい温もりを感じる。 弟達のことはよく撫でたりするが、自分が誰かに褒めて撫でられるなんて久しく無い。胸の辺りがこそばゆくなった。 「先輩って進路決まってるの?」 朝のHR(ホームルーム)で進路調査票を配られてふと思い訊いた。塾にも通いつめているし、余程レベルの高い大学でも狙っているのだろうか。 因みに志津はまだ、進路については何も考えてはいなかった。 「そうだね。だいたいは決めてるよ」 だろうな、と鼻で笑うと総司が肩にもたれかかったてきた。 急にこういう事をされると慣れていないせいか、ドキドキとする。 そして、いつもの甘い華の香りがする。 志津はすっかりと、この匂いの虜になっていた。 黙ったままでいるので見下ろす形で視線を落とすと、総司は目を閉じていた。 (睫毛長いな・・・・・・) そんな事を思いながら眼鏡がズレ落ちた目元を見ると、薄らとクマが浮かんでいた。 「寝不足?」 「うん、最近夜遅くまで起きてるからね」 (勉強大変なのかな・・・・・・) 志津は労わるように、自然と総司の右手を摩ってしまった。 (あ・・・・・・。なんかこういうのって恋人同士っぽいのかも) 自分からしといて急に顔が熱くなった。 特にナニをする訳でもなく、友達感覚でいたので志津の中で付き合っている意識が薄れていた。 「ねえ、志津・・・・・・」 名前を呼ばれビクッと肩が上がる。勝手に触れて気を悪くさせてしまっただろうか。 少し不安気に口元を締めて総司を見た。 「拳赤いけどどうしたの?」 総司は目を細めて訊ねる。 嫌がられてはいなかったようだ。志津は総司から手を離し、自分の右拳を摩った。 「これは喧嘩した時に、ちょっと」 「喧嘩?志津は喧嘩したりするの?」 「まあ、俺、こんなんだから絡まれたりダチの助けに行ったりするからね」 負けたりすることもあるが、喧嘩に勝った時の快感もたまらなくて誇らしげに語る。 その隣で、総司は気難しい顔をしていた。 「志津・・・・・・。喧嘩して怪我したらキスするよ」 「キ・・・・・・!?またそれ?冗談かもしれないけど、無理だね」 「冗談?冗談言っているように聞こえる?」 総司の声にぐっと力が入ったのが分かった。 一瞬怖じ気立つも、志津は負けたくないと立ち上がる。 「前だってキスするとか言って、敬語使うの止めさせようとしただろ?その手口にはもう乗らないからな!」 前は周りの目もあり、仕方なく折れた。 今は二人しかおらず、校舎も離れているので気にしないで発言出来る。 「嫌なら喧嘩止めるか怪我しないようにしな。ただ、それだけのことだろ?」 総司は簡単そうに言った。その言い方に縛りを感じて、志津に更に火をつける。 「俺にだって、譲れないもんがあるんだよ!」 先輩だろうがなんだろうが、そこまで言われる筋合いは無い。 志津は教室を飛び出した。

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