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第1話 (2)

*** 「おーい。しーづー」 帰りのHR(ホームルーム)も終わり、友人で幼馴染みでもある蒼生(あおい)に呼び掛けられる。 窓際の後ろの席に座る志津は抜け殻のように微動だにせず、机に顔を突っ伏したままでいた。 「呼んでも無駄無駄。昼休み戻って来てからずっとあんな感じ」 隣の席に座る空太(そらた)は、蒼生に説明をする。 「あー、そう言えば告るって言ってたもんな。あの調子なら振られたか」 「あはは、志津どんまい!」 蒼生と空太は志津が振られて傷心しきってるのだと決めつけて笑って茶化してるが、その逆だ。 オッケー貰えたぜ!と自慢してやりたいぐらいだが、そうも行かなかった。 なんせお相手は──。 「赤っぽい髪で、ヘアピン留めしている男子っている?」 教室ドアの後ろから、誰かを探している風な声がした。教室にはまだ数人と残っていたので、何事だと騒めく。 「もしかして、志津のことじゃね?」 蒼生がひそひそ声で言う。 脇側からの髪をヘアピンで留めている男子と言えば、志津しかいなかった。しかも、赤に近いような赤黒髪に染めている。 志津は黙って確認するように、声の主の顔を見た。印象が強い、黒縁メガネが真っ先に映る。 昼休みに、間違えて告白した男だ。 (まじかよ・・・・・・) 不運にも目が合ってしまう。 目元を緩ませ探していた男子を見つけた、と男は教室に入って来て席まで歩み寄ってくるではないか。 学生服の襟元に付いている桜型のバッジを見て蒼生と空太は先輩だと気付き、距離をとった。 「わざわざ二年の教室にまで来てどうしたんですか」 志津は、バツが悪そうに仏頂面で訊ねた。出来れば会いたくなかったし、昼休みの時の自分を殴りたいくらいだ。 「どうしたって俺達つき・・・」 それ以上言われたら不味いと察し、志津は思わず自分の机を蹴り倒した。 強く机が倒れた音に教室内は一気に静まり返り、その光景を見て居合わせていたクラスメイトはそそくさに出て行った。 蒼生と空太は驚くことなく、平然と見守っている。志津のこうした一面は見慣れているのだろう。 志津は学校内でも不良枠の地位にいて、蒼生と空太も同類としてつるんでいる。 一番喧嘩っ早い蒼生は加勢するべきか拳を握りしめると、いつも仲裁役の空太は様子を見るよう首を横に振った。 「折角仲良くなれたんだし、連絡先交換しに来ただけだから」 何かを察したのか言葉を変えて、志津は耳打ちをされる。と同時にふわり、と高級感のある華の甘い香りがした。 耳に掛かった吐息と香りに酔って、高ぶった感情が怯んでしまう。 (なんで、男にドキドキしてんだ・・・・・・) 黙ったままでいると五十嵐総司(いがらし そうじ)、と名前と連絡先が記された紙を渡されて教室を出て行った。 (メモ紙ファンシー・・・・・・) 手に握るのは、男子高校生には似合わない、可愛らしいウサギ模様のメモ用紙。あの男が所持している物だと思うと、可笑しく思い、志津は沸点が一気に下がった。 「志津、大丈夫か?」 「上級生だったみたいだけど、何かあったの?」 蒼生と空太が眉をひそめて交互で聞いてくる。 「あ、あー・・・・・ ・、うん。大丈夫。心配掛けて悪い」 志津は渡されたメモをクシャりと握りしめて、ポケットに突っ込んだ。

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