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第2話

──五十嵐総司(いがらし そうじ)、三年特進クラス。 志津(しづ)は一緒に帰る約束をしてしまった放課後までに、総司について調べる事にした。 上手く他の生徒や廊下の柱の壁に隠れつつ、今は教室内にいる総司を向かい側の三階の校舎から見張る。 ──身長178cm。足のサイズ、27cm。 友人は男女問わず多い。学級委員も務め、先生からの信頼も厚い。部活には所属していないが、運動能力も高く成績順位も毎回三番以内とかなり優秀。 調べれば調べるほど、非の打ち所のないハイスペックだ。 (なんで俺みたいな奴の告白を受けたんだ・・・・・・) 志津は壁にもたれて座り込んだ。 成績も授業態度も悪く、先生からも更生させる余地がないと諦められている。 唯一褒められることと言えば、男のくせに肌が綺麗で顔が可愛いとだけだった。 特に女子からは羨ましいと言われて、頬を触られたり髪をいじられたりもする。 不良であっても複数の女子に囲まれて仕舞えば、大人しくするしかない。 女子からしては、小さい時に遊びをした着せ替え人形感覚なのだろう。 今付けているヘアピンも女子が落ちてくる髪の毛を留めるのに丁度いいかもと試しに付けられて、自分でも視界の邪魔だと思っ ていたのでそのまま付けるようになった。 (しっかし、男なのに可愛いとか嬉しくないだろうが・・・・・・) 志津は、大体のことは調べ尽くしたと思い昼飯を食べようと自分の教室へと戻ることにした。 「しーづー。午前中の休み時間中ずっといなかったけど、どこいってたんだ?」 どしっと重い物が肩に伸し掛る。教室前の廊下で蒼生(あおい)が、後ろから腕を回してきた。 「や、ちょっと調べ事を・・・・・・」 総司を付け回っていたと言えば気味が悪い奴と思われるだろう。なんとかはぐらかそうとした。 「やっぱりさー、あの先輩と何かあったのか?」 空太(そらた)もやってきて、いきなり鋭いことを聞いてきた。 ぎくりとして返答に困っていると、蒼生はその隙を見て、志津の胸ポケットからノートを抜いた。 「あー!あー!!」 志津は声を荒らげる。ノートを見られたら確実に五十嵐総司について調べていたことを知られてしまう。 蒼生はノートを見開いて、黙り込んだ。 「・・・・・・。字、汚くて読めねー!これ何語?」 笑い声が廊下に響き渡った。 うねうねとした蛇みだいな字だ。歩きながら書き記していたせいもあり、いつも以上に汚く見えるかもしれない。 バレなくてよかったのか悲しいのやら。 とにかく、勝手に抜き取った蒼生には腹が立ち、利き腕を後ろに回してノートを奪い取った。 「痛い!痛い!暴力はんたーい!」 なにが反対だ。蒼生が一番喧嘩をして暴力を奮っているではないかと志津は蔑んだ。 じゃれていると、廊下を歩く亘理雨音と目が合った。 ひとつ縛りにしている髪を揺るがせ、横切って行ってしまったが、一瞬でも自分を見てくれたのかと思うと顔が熱くなる。 (くっ。可愛い・・・・・・!) 早く総司には誤解を解いて、ちゃんと彼女に告白しよう。 決意を固めるように、本気で痛がっている蒼生を他所に、志津は締め上げる手に力が入っていた。

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