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第2話 (4)
***
総司とは進学塾が入っているビル建物の近くで別れ、志津は結局なにも言えずに家に帰って来た。
「ただいまー」
慣れないこと続きで疲れたのだろう。靴を脱ぎ、気が抜けた声で玄関を上がる。
「兄ちゃんおかえりー」
大成と潤がバタバタと走って玄関まで駆け寄って来た。その勢いに任せて、志津の脚に飛びつく。
「宿題終わったか?」
小動物みたいに可愛いく懐く弟達に、志津は頭をわしゃわしゃと撫でながら訊いた。
「うん、もう終わったよ!潤も明日の幼稚園の準備ばっちりだよ!それより、今日は晩ご飯なーにー?」
大成は、ぱっと顔を明るくする。志津が作るご飯が大好きで、毎日楽しそうに訊いてくるのだ。
「今日は母さんからのリクエストでオムライスです!」
「やったー!オムライス好きー!」
大成は両手を挙げて、無口な潤は口元をにこっとさせて喜んだ。素直に好きを表現している姿を見て、志津の頬は緩みっぱなしでいる。
志津にとって二人の弟は癒しでもある。総司との始まった関係に悶えていたが、気合いを入れ直した。
「よし、ふわとろなオムライス作るぞー!」
「ふわとろー!俺も潤も作るの手伝う一!」
志津の後に続くように、大成と潤も台所に向かうのだった。
カッカッカッと、卵をかき混ぜる音が台所内でリズムよく聞こえる。潤が菜箸を持ち、大成は卵が入ったプラスチック製のボウルを動かないように椅子に立ってキッチンテーブルの上で抑えていた。
志津はご飯と細かく切った野菜をいっぱいに混ぜ合わせて炒め、ワークトップに並べられた平皿と動物が描かれた小さめな皿にそれぞれ寄る。
ベーコンをカリカリに焼いたので、香ばしく食欲をそそる匂いが広がっていた。
「大成、卵入れていいぞ!」
「りょーかいっ!」
フライパンにバターを入れて溶かし、志津は卵を焼ける準備を整えた。大成は踏み台を使って志津の隣に並び、軽く味付けをした溶き卵を流し込む。
ジュワジュワと焼けた音を合図に木ベラを使って半熟卵を作り、手際よくご飯の上に乗せた。
「ふわとろー!ふわとろだよ、兄ちゃん!」
大成と潤は目を輝かせた。後はトマトサラダとオニオンスープを添えて晩御飯の完成だ。
「兄ちゃん料理上手だから、どこにお嫁さんに行っても恥ずかしくないね!」
「嫁!?大成はどこからそんな言葉覚えてくるんだ」
「先生と女の子達がそんなこと話してるの聞いたんだよ」
小学生にもなると進んだ話をしているのだなと志津は思った。
嫁とはつまり女の人を表す意味で、自分が嫁に行くことはないだろう。強いて言えば、貰う方だ。
「なー、兄ちゃんに彼女とか出来たらどうする?」
「彼女出来たの!?」
大成は驚くように食いついてきた。今まで弟達に浮くような話をしたことはなかったかもしれない。
「彼女は・・・・・・、まだだけど」
(彼氏なんて言えないしな・・・・・・)
志津は弱々しく言葉を吐いた。いつかはちゃんと彼女を作って弟達にも紹介して、と妄想が広がるも、総司の顔が浮かんで直ぐに消え去った。
「うーん。寂しいけど兄ちゃんが幸せなら何も言わないよ!」
「そ、そっか!」
意外と一般的な答えが返って来て志津はほっとする。大成はたまに子供らしからぬ発言をするので、質問の返しに驚くことがあった。
「ただ・・・・・・。兄ちゃんのこと困らせて不幸にしたら◯◯ して◯◯◯ して二度と社会に出れなくしてやる」
黙って会話を聞いていた潤は大成の意見に賛同するようにコクリ、と静かに頷き、揃って目が座っていた。
(俺の可愛い弟達が・・・・・・!)
自分が誤ってしまったせいではあるが、今まさに付き合っている相手について重悩んでいる。
総司との関係は尚更に言えない、と志津は悟ったのだった。
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