30 / 44
第29話
そして
ペットショップに居座って2時間が経った頃、ようやく満足したのか結はこちらに向いて謝ってきた。
「なんだ?今度は」
「あか、つまんなかった・・・」
「そんな事ないぞ、気にするな」
そう言って結の頭を撫でた。
これはもう癖になってしまっているのかもしれないな。
しかし、つまんなくなかったというのは本当だった。動物には興味の無い俺だが、一々動物の動きに合わせて表情をコロコロ変えている結を見ているのは楽しかった。
「あか・・・また、来てもいい・・・?」
「ああ、気に入ったんならまた連れてきてやるよ」
「ありがとう・・・っ」
声を弾ませた結に、俺もなんだか嬉しくなってしまった。
こいつといると本当に今まで感じたことのない感情が感じられる。
今までこんなに人に喜んでもらおうと動いたことがあっただろうか?
人が喜んでくれて俺まで嬉しくなったことがあっただろうか?
そもそも、人に興味すら湧かなかったのに結にだけは違った。
こいつには笑ってほしい、喜んでほしい、安心させてやりたい、泣いてほしくない・・・そんな事ばかり思ってしまっている。
なんでだ?
これが、親心みたいなものなんだろうか・・・
子供にはずっと笑っていてほしい・・・みたいなやつなんだろうか
こいつの言うことなら何でも叶えてやりたいと思ってしまう。
こんな父親代わりじゃ駄目なんだろうか・・・
甘やかすだけは駄目だと聞くし世の中の父親は可愛い自分の息子にどうやって接しているんだろうか・・・
「結、そろそろ帰るか?」
さっきと同じ質問、でも結は悲しそうな顔なんかはしていなくて、今度は・・・
「うん!」
あの、顔は笑っていないのに喜んでいるのがわかる・・・俺の好きな顔で返事をしてくれた。
「今日は楽しかったか?」
デパートから出るまでの道のり、俺は今日の目的、結に楽しいことを教えるというのを思い出した。
今日を振り返ると全てが楽しかったと言える訳ではないと思う。
結は何回も練習していた注文を言えなかったし、俺がイライラしてしまったせいで悲しい思いもさせてしまったし・・・
でも、きっとこいつはこう言うんだ、
「ぼく・・・今日楽しかった」
こう言ってくれるんだ。
この言葉で救われた気がしてしまう俺は多分これからも理不尽に結を悲しませてしまうんだろう・・・
そう思ったら俺が悲しくなってきてしまった。
「・・・あかは、」
「ん?」
「あかは・・・、楽しくなかった?・・・ぼく、たくさんわがまま言った、困らせた・・・」
「そんなことねーよ、俺は今日お前が楽しんでる姿見てて本当に楽しかったぞ?」
そう言って俺は結の頭を撫でた。
こいつの頭撫でんの落ち着くんだよな、無意識にやってしまう。
「あかも、楽しかった・・・よかった・・・」
結がそう言うのと同時に車に着いていた。
ともだちにシェアしよう!