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第32話
「あの子・・・どうなんだ?」
それから30分程して、結はなんとか組長に慣れてくれていた。
結と組長が話し始めてから一言も発しなかった俺たちだが、急に口を開いた中野から聞かれたのはそんな事だった。
「あー、まあ、一日一緒にいたけどなんとかなってるよ。よく訳分かんない事だらけだし、あいつが何を思ってくれてんのかも分かんないけど、これからも一緒にいてやりたいとは思うくらいにはなった」
「・・・は?」
中野が隣で目を点にした。こんな中野を見るのは初めてかもしれないと思ったらなんか吹き出してしまった。
思いっきり睨まれてしまったが今更こいつのことを怖いなんて思ったりはしない。
「お前、あの子とこれからもいるつもりなのか?」
信じられない、という風に言ってくる中野にイラっとしたが俺はあいつが俺のところからいなくなるまでは一緒にいようと思った。
きっと今は俺たちの住む世界がどんなところか、分かっていないから結は俺と一緒にいたいと言ってくれている。しかし、もっと大きくなった時にあいつは俺たちのことをだいぶ理解してきっと離れていくだろう。
だから、俺はあいつが俺の元を離れたとき、ちゃんと安心して外に出て行けるようにこれから結に色々なことを教えていこうと思っている。
ふと結を見ると何を話しているのか、組長の膝の上から気になっている様だった。
俺はそれを見て手を振ってやる。
そうすると結は安心したようにまた組長と話し始めた。
「そうか、お前が変わったんだな。」
ボソッと言った中野に聞き返すが教えてくれなかった。
まあいいか、と俺はまた結を見る。
結はずっとこっちを見ていて、俺が結を見る度に目が合った。
それがなんだか嬉しくて胸が暖かくなる。
「組長、そろそろ仕事をしてくれないと困ります。その子を離して仕事に戻ってください」
「まだ、話していたいんだが・・・」
「駄目です。仕事してください」
駄々を捏ねる組長に呆れている中野に手助けをしてやろうと、俺は結に話しかけた。
「結もそろそろ帰ろう。組長の邪魔になる」
「ぼくたちの、おうち?」
「そうだ、帰ろう」
結はうん!、と元気よく返事をして組長の腕の袖をクイクイと引っ張った。
「ぼく、帰る。おじいちゃん、おしごとがんばって・・・?」
「お、おお!頑張る!頑張るぞ!」
いつの間にか組長をおじいちゃんと呼んでいた結に冷や汗をかいたが、組長はやる気を出し中野に仕事を持って来い!と言っていた。
そんな組長にも呆れたような中野だったが、仕事をしてくれることになったことに安心したのか持っていた大量の紙の束を組長の前に置いていた。
組長から離れ俺の元に来た結の手を取り、大量の紙束にうんざりしている組長に挨拶をしてから俺たちは組長の屋敷を出た。
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