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第36話   結side

ぼくの夢・・・ いつか、いつか、ぼくのことを“すき”って言ってくれる人がぼくのことを迎えに来てくれること・・・ でも、そんな事は結局はただの夢でしかないことはいままでの時間の中で分かりきっていた。 きっとそんな人現れることは一生ないんだ。 分かってる。だからぼくはいつだって膝を抱えて、静かに、呼吸さえ止める勢いで生きてきた。 隣のお部屋のゆきさん・・・いつもお母さんにベランダに出されるとお話しに出てきてくれていた優しい女の人。 “けっこん”してどこかに行っちゃった・・・ ぼくはまた一人ぼっちだった・・・ 痛かった、泣きたかった・・・そんな事誰も許してくれなかった。 ある日から、お母さんが帰ってこなくなった。 ぼくはそれでもよかった。 痛くない、泣きたかったら泣いても怒られない。 ぼくはこれから、好きなことを好きなようにして死んでいけるんだって嬉しくなっていた。 それから何回も朝が来て、夜が来て、また朝になって・・・ 何回も繰り返した時、知らない男の人がお部屋に入ってきた。 その人は何でか、ぼくの色んなところを触ってきた。 気持ち悪くて、ぼくはもうなんでもいいから静かにしていてほしくて・・・男の人が文句を言いながらぼくをお風呂に入れようと手を離した瞬間走り出した。 ご飯なんてまともに食べていなかったから、足はフラフラしてなんだか頭もフラフラしてて、がむしゃらに走って外に出た。 明るい・・・ そう思った瞬間、何かにぶつかった。 もう何がなんだか分からないし、なんでもいい。 ぼくを自由にしてくれれば、ぼくを楽にしてくれれば・・・なんでもいいから。 でも、ぼくを抱きとめて、お金を出して男の人からぼくを助けてくれた人はとても暖かかった。 ここなら、ずっといたいなぁ・・・ ずっと、ずっと、この腕の中にいたい。 そのためなら何だって我慢するのに、お母さんにされたどんなに痛いことでも、男の人にされた気持ち悪いことでも、暗い部屋で一人で泣いて過ごしていくことでも・・・なんでもいい。 だから、ぼくをこの腕のなかにずっといさせてよ。 ・・・ごめんなさい。 そんなわがまま言っちゃいけないこと分かってるんだ。 今までだって、ずっとわがまま言ってお母さんに怒られてたじゃないか。 ゆきさんだってずっと一緒に話していてほしいって思ってたらいなくなっちゃった。 この人もいなくなっちゃう。 だから、ぼくはこの人・・・“あか”がお前いらないって言うまでずっと一緒にいるんだ。 そのためにぼくは何だってするよ。 ぼくを利用して、怒鳴って、殴って、無視して、気持ち悪いことして、最後には殺してくれればいい・・・ ぼくがこの腕の中からいなくならなくちゃいけなくなったら、ぼくはこの世界からもいなくなる。 だからぼくは一生この腕の中にいれるんだ。 そう思ったら、ぼくはあかと出会ってからずっと胸がぽかぽか暖かかった。 ゆきさんがいなくなっちゃう時言ってた“幸せ”ってこういう事を言うんだって分かったんだ。

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